ファスナー開けたら赤身!?「解体ショー気分」が味わえる「マグロバッグ」が話題 考案した職人を直撃

吉村 智樹 吉村 智樹

一人のかばん職人が生みだした「マグロバッグ」がSNSで話題となっています。作ったのは京都の上賀茂(かみがも)に工房「かばんばか」を開く若手職人、川本有哉さん(30)。Twitterのフォロワー数が1万7500人を超える、かばん界のインフルエンサーです。

「誕生してまだ約2週間」というフレッシュな「マグロバッグ」は、中トロ部分がデニム。その他の部位が牛革という異素材ミックス。赤身部分など3か所にファスナーが横付けされ、「解体ショー」感覚で開けられるのだそう。

ファスナーを引くと朱色の裏地が現れ、本当に切り口を覗いているかのよう。目玉に見立てた金属製リングは、穴からイヤホンや各種コードを通すことができ、利便性も充分に考えられています。

「立体感を表現するのに苦労しました。ヒレを引っぱるとファスナーが開いたり、『食後』をイメージして、ひっくり返すと骨になる遊びも採り入れたりしています」

意外とかわいいうえに、おいしそうな「マグロバッグ」。なにがきかっけで作りはじめたのでしょう。

「きっかけは“直感”です。デニムの産地で名高い岡山県児島産の素晴らしい生地が手に入り、『この上質なデニムと国産牛革を組み合わせたら、きっとすごいかばんができるぞ』と嬉しくなりまして。そして頭にパッと、マグロが泳ぐ姿が浮かんだんです」

黒に近い奥行きある色合いのデニムと、渋いグレーの牛革。これを重ねたとき、ひらめいたのが凛々しいマグロの姿だったのだそう。それから川本さんはマグロが回遊する動画や骨格の画像などを何度も閲覧してデザインしたのです。

マグロバッグ完成までをライブ配信

「マグロバッグ」には、もうひとつ特筆すべき点があります。それは試作から完成までの様子をライブ配信したこと。視聴者はマグロが稚魚から成長してゆく過程も楽しめたのです。

「製造行程を配信する理由は、一人で作業をしていると寂しいから(苦笑)。ライブ配信しながらだと仕事中に視聴者と会話できます。いただいたコメントがかばん製作のヒントになる場合もあるんです」

たった一人で営む工房から全国へ。ライブ配信が功を奏し、完成ともにたちまち購入の注文が相次いだのだそう。そうして新鮮なマグロバッグは無事、続々と「出荷」されてゆきました。

どんなかたちにも挑戦する「かばんばか」

川本さんが生みだすユーモラスなかばんは、マグロだけではありません。リンゴのウサギ、やどかり、フランスパン、レトロなテレビ、カレーライスなど斬新なものが多数。

「これまで製造したオリジナルかばんは、およそ100種類。フルオーダーを合わせると500種類以上の商品を作ってきました。『うちはみかん農家なので、みかん型のリュックサックが欲しい』など、依頼がくるんです。『ほかの工房から断られた。あなたならやれるでしょう』とおっしゃる方もおられます」

「かばんばか」はまるで、かばんの駆け込み寺。すべての依頼が初挑戦。形状がユニークなだけでは、かばんになりません。川本さんは「上質な素材で、頑丈に作る」を心掛けています。

「芯材と裏地をしっかり組み込んでいます。かばんとして使えないと意味がないですから」

どう使うの? 「S字カーブ」の謎ポケット

そんな川本さんが頭角をあらわす引き金となったのが初期作品である、ポケットがS字にカーブした「スーパーバッグ」。

「かばんづくりのベテランのかたが、『これは参った!』と拍手してくれました。自分で工房を開く自信にもつながりました。カーブの部分になにを入れるか、ですか? そうですね。バナナとか」

工芸界に新風を巻き起こしながら駆け抜ける川本さん。その姿は豪快に泳ぐマグロのよう。

「一から新しいかばんを作るのは正直、難しいです。これまで経験がない難所に必ずぶち当たります。けれども壁を乗り越えると知見が増え、表現の幅が広がるんです。これからも“見たことがないかばん”を作り続けたい。まだ見ぬかばんに出会えるのが、自分でも楽しみなんです」

これからどんな驚きのかばんを生みだしてくれるのか、期待が高まります。そしてマグロは縁起がよいと言われている魚。マグロバッグを背負って新しい年を迎えたいですね。

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▽かばんばかWebサイト
https://kabanbaka8.thebase.in/

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