全盲のトイプードルを新しい家族に迎える決心…「この子には私しかいない」

岡部 充代 岡部 充代

 仲良く並んだ3匹のトイプードル。右から長女のモコちゃん、次女のチャチャちゃん、末っ子のムート君(血縁関係なし)。飼い主さんのインスタグラムでは“モチャムー”の愛称で人気のトリオです。実はこの中に全盲の子がいるのですが、どの子か分かりますか?

 正解はクリクリお目めのムート君。先天性の疾患で、生まれたときから目が見えません。兵庫・宝塚市に住む橋本悦子さんがムート君に出会ったのは16年12月。ペットショップに勤めるママ友から「全盲のトイプードルを引き取ってほしい」と連絡がありました。すでにモコちゃんとチャチャちゃんを飼っていて、3匹目を飼うならどちらかの子供と考えていた橋本さん。積極的な返事はしませんでしたが、「あなたしかいない。とりあえず見に来て」と言われて行ってみると…そこには、震えが止まらず、立つことさえできない子犬がいました。

 「箱から出されると怖かったんでしょうね。まるで毛皮の敷物みたいに、四本脚を伸ばしてペタンとなっていました。お店では“クンクン”と呼ばれていたのですが、いつもクンクン鳴いていたみたいです」(橋本さん)

 一緒に連れて行ったモコちゃんとチャチャちゃんは、口元が泡だらけになっていたそうです。興奮によって唾液が過剰に分泌されたためでしょう。お散歩やドッグランで犬に会っても、2匹がそんな風になったことはないと言いますから、クンクンが他の犬とは違うと、本能的に気付いていたのかもしれません。ただ、それでも橋本さんは、新しい家族を迎える決心をしました。

 「この子には私しかいないと思ったんです。ずっと以前に、子供の同級生の家に全盲の犬がいて、でも『マンホールもちゃんと避けて歩くし、目が見えなくても何も変わらないよ』と聞いたことがありました。それも後押しになったかもしれませんね」(橋本さん)

 橋本家の一員となった子犬は「ムート」と名付けられました。ドイツ語で「勇気」という意味で、「勇気を持っていろんなことに挑戦してほしい」という願いが込められています。

 全盲と聞くと、家の中でぶつからないように家具の配置を工夫したり、お散歩のときも細心の注意を払って…と想像しますが、実際は違うようです。

 「部屋の模様替えをすると、最初は確認しながらそっと歩きますが、3日目には走っています。トイレの位置も家に来てすぐに覚えましたし、床にオモチャが落ちていると、ピンポイントでくわえるんですよ。お散歩も、私の周りをグルグル回るのでリードが絡みやすいことを除けば、困ることはありません。階段を下りるときに抱っこが必要なことくらいですかね」(橋本さん)

 取材中も軽快に歩き、気持ちよさそうに走る姿を見せてくれたムート君。目が見えない分、人に触れることで安心感を得たいのか、お母さんがベンチに腰掛けるとすぐに膝に上がり、私がしゃがんでもやはり膝の上…というのが特徴といえば特徴でしたが、そんな子はよくいますし、事前に聞いていなければ、全盲とは絶対に気付きません。

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