生まれつき目がない犬が教えてくれたこととは? 最初は拒否した先住犬も受け入れ、家族の仲間入り

岡部 充代 岡部 充代

 konoちゃんは2歳のトイプードル。生まれつき目がなく、ブリーダーに飼育放棄されました。一時期、保護していた動物保護団体『わんらぶ』の代表・橋本慶志子さんは言います。

「見た目で分かる病気や障がいを持つ子は売り物にならないので、ペットショップに並ぶことはありません。でも先天性疾患は珍しいものじゃない。救われるのはごく一部で、多くは人知れず命を落とすのです。どうか、ショーケースの裏側にも目を向けてください」

 konoはハワイ語で「招く」「誘う」という意味。里親になった鈴木志穂さんの「この子自身が幸せを招いてくれるように」という願いが込められています。先住犬の名前はmoanaとmakani。それぞれ「海」「風」という意味があり、moanaちゃんはハワイの海のようなエメラルドグリーンの目が印象的で8月にやって来たこと、makaniちゃんは風のように颯爽と走る活発な子だったことから命名しました。どちらも元保護犬です。

 konoちゃんとの出会いは2018年12月。里親募集サイトを見ていた鈴木さんの目に、ある紹介文が飛び込んできました。

「先天的に目がないと書かれていました。そういう子を探していたわけではないのですが、実はもう1匹、他の団体さんにも目が見えない子がいて、『この子たちにはなかなか手が挙がらないだろうな』と。私も経験がなかったので、先に連絡したわんらぶさんでお見合いさせてもらうことにしたんです」(鈴木さん)

 初対面の印象は「天真爛漫」。目が見えないことを感じさせない明るさに魅力を感じてトライアルに入りました。気になるのは先住犬たちのとの相性です。konoちゃんは「こんにちはー!」と持ち前の明るさで挨拶しましたが、moanaちゃんとmakaniちゃんはまさかの拒絶。もともと2匹の居住スペースは1階だったのに、2階へ上がったまま降りてこなくなりました。

「想像していない反応でした。1階に連れて来ると2匹は隅っこに隠れるし。そんなことが3~4日続いて自信がなくなり、わんらぶさんに電話したんです。そうしたら、『どうしても無理ならすぐ迎えに行きます。でも、鈴木さんに覚悟があれば大丈夫だと思いますよ』って。本気で家族になる覚悟があるかを問われていたんですね」(鈴木さん)

 もう少し見守ることにした鈴木さん。すると、moanaちゃんがkonoちゃんに興味を示し始め、konoちゃんのクレートの前でクンクンと匂いを嗅いだり、吠えたりするように。そしてkonoちゃんをクレートから出してみると…moanaちゃんが遊びに誘ってくれました。

「moanaがkonoを許すのを見て、makaniも受け入れてくれました。『ボスが許すなら私も』って感じで。犬の縦社会をまざまざと見せつけられましたね。初めての経験で感動的ですらありました」(鈴木さん)

 すぐわんらぶに連絡し、正式譲渡をお願いしたのは言うまでもありません。

 

 一緒に暮らすようになって2年半余り。目が見えないkonoちゃんのために特別なことは何もしていないそうです。

「konoは感覚が研ぎ澄まされていて、ちゃんと家具の配置を覚えてぶつからないように歩きます。嗅覚や聴覚以外にも独特の感覚があるようで、首を傾げて空気の振動を感じ取っているような仕草をするんですよ。初めての場所は少し怖がりますが、いつも行く公園は走り回るようになりましたし、きのうできなかったことがきょうはできるようになる。成長を見るのは楽しいです」(鈴木さん)

 鈴木さん自身も成長できたと言います。

「障がいを持つ動物や人に対して、無意識のうちにネガティブな偏見を持っていたと思うんです。konoは目がないので、見ようによっては顔が少し怖い。動物病院で隣に座っていた人に席を立たれたこともありました。感染病か何かを疑ったのかもしれませんが、もしかすると私もそちらのタイプだったかもしれない。かわいそうとか不憫という気持ちがあって、konoの顔を隠そうとしていた時期もありました。でも、konoはありのまま飾らない。そんなkonoから新しい価値観を教えてもらいました」(鈴木さん)

 動物に気づかされることはたくさんあります。

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