悲しい過労死…精神的な変調を感じたら受診を

ドクター備忘録

谷光 利昭 谷光 利昭
 白衣の下には過酷な日々に耐える医師の体があります
 白衣の下には過酷な日々に耐える医師の体があります

 過労死…悲惨な言葉だ。「医療界は以前と少しも変わっていない」「なぜ繰り返されるのか」-。『過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウム』では、切々とした発言が続いた。

 重労働による精神崩壊で死に至ることは本当に悲しいことだ。同会代表の御主人は小児科医で、病院で飛び降り自殺をされたという。勤務中に命を絶つ。よほど精神状態が追い込まれていたのだろう。残念で仕方がない。

 私も医師になりたての頃は大変だった。「人の命に関わる仕事だから24時間営業は当たり前だ」と先輩医師から言われ、1カ月間病院から出ないことは珍しくはなかった。太陽の光を見ずに生活するので、体内リズムは完全に崩れ、肉体的、精神的にもかなり辛かったことを覚えている。

 土曜の夜から雑務を行い、気が付けば日曜の夜となり、誰もいない医局で切ない気持ちに陥っていく。2、3時間の睡眠で翌日の仕事に入ることが頻繁にあった。人格者である先輩医師は、土曜の夕方に道を歩いていると焼酎の瓶に追いかけられたという幻覚を見たという。

 人間は、いくら立派でも睡眠時間が減ったり、過度のストレスがかかると、幻視、幻覚の出現、判断異常を来したりする。その延長で様々な精神症状が出現する。変調をきたした際には、早期にカウンセリング、心療内科などを受診した方がいい。完全な鬱(うつ)状態になると外出さえ億劫(おっくう)になるので、それも困難となってしまうから。

 仕事の多くが他人からの“強制”なので、ストレスの強さも違う。自分のしている仕事が天職で、強制が弱ければ、ある程度のストレスは乗り切れるかもしれない。ただ、恵まれた環境で仕事をしている人は、今の世の中で少数なのではないだろうか…。悪循環から脱出するには、どう対応したらのいいのか?医療界だけでなく、社会にとっても差し迫った重要課題だと、私は思う。

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