医者の提案が想定外を引き起こすことも
例えば、第6、7話では医者の提案が患者や介護者にとってうまくいかず、行き場のない思いがつのる様子がリアルに描かれていた。主治医から「適度なストレスは脳を活性化させる」との理由で、学生の前で講演することになった尚だったが、人前に出た瞬間、突然意識を失い救急搬送されてしまう。主治医からは直接認知症とは関係のない発作だが「病状が進んでしまうことがあります」と言われてしまう。それに真司は納得できず、主治医を怒鳴りつけてしまう。「回復の兆しもあると言ってたのにそれでこれですか、あんたアルツハイマーの権威だろ、どこが権威なんだ」と。
筆者の祖母はここ3カ月ほどで、アルツハイマーがぐっと進んだ。特にトイレの場所、仕方、トイレットペーパーのふき方、オムツの上げ下げがわからない回数が増えたり、週2回ほど徘徊したりするようになった。そこで主治医に相談して薬(安定剤3種類と睡眠剤)を追加してもらったところ、かえって症状が悪化。後日、医者に症状の悪化を伝えると「まだこの病自体が完全に治らず試行錯誤の段階。薬は処方してみないとわからない部分もある」と苦渋の表情だった。
最近は、お箸の持ち方を忘れたり、ジャガイモやピーマンを生で食べたり、電源コードをかじりそうになったり…。トイレや着衣着脱まで全部忘れてしまい、日常生活がほぼ全てできない状態になり、先月末施設へ入所した。少しでも祖母の症状改善を期待した上での結果なので致し方ないのかもしれないのだが、医者の言葉にどうしてもモヤモヤする思いも感じてしまっていた。
対等な介護ができているのか
そして、第8話では、「対等な介護」について考えさせられるシーンがある。
尚と同じ病で闘病している男性が、主人公に強い好意を持ち、一緒に心中しようと睡眠薬を飲ませて連れ出してしまう場面だ。
闘病している男性は、尚を探しにきた真司に言い放つ。「同じ病気の者しか愛し合えない。真司と尚は対等じゃない。尚は小説の道具に利用されただけ」。
一方、そんなやりとりに尚は「小説を書いてくれることは私の生きがい。私たち夫婦にしかない形。他の誰にもまねできない。対等かどうかなんてどうでもいい」と、お互いを愛し尊重する関係には多様な形があるのだと力説する。
筆者は祖母がアルツハイマーであっても、病ではない時と同じように話したり、出かけたり、ご飯を食べたり、ケンカしたり、笑ったりと、極力対等な関係を保ちたいと思っている。しかし、その間合いや距離感は難しく、ときに祖母を苦しめているのではと感じることがある。