その痛み、放っておいて大丈夫!?胸痛でなくも心筋梗塞の痛みかも

渡辺 陽 渡辺 陽
心臓病による発作は放散痛の症状が加わることがある(C)oka - Fotolia
心臓病による発作は放散痛の症状が加わることがある(C)oka - Fotolia

 -では「放散痛」とは何なのでしょうか。

 「心臓の神経は脳とつながっています。心臓の痛みは脳が感じているのですが、その痛みを感じる回路は、肩やお腹にもつながっているのです。そのため、本当は心筋梗塞が起こっているのですが、左肩の肩こりや痛みを感じる、背中が痛む、お腹が痛む、のどが詰まるような感じがするなど、胸から20~30センチのあたりに症状が出ることがよくある。そうした症状を『放散痛』というのです」

 「ただ、胸の痛みや放散痛を感じているからといって、必ずしも心筋梗塞とは限らない。肺炎など肺の病気のこともあるし、エコノミークラス症候群で肺血栓を起こしていることもあります。お酒の飲み過ぎや逆流性食道炎、胃潰瘍でも同じような症状をきたすことがある。医師は、丁寧に問診して診察します」

 -胸の痛みや放散痛を感じたら、どうしたらいいのでしょうか。

 「まず、その症状が『急に起きたかどうか』が問題です。どうもただことではない、今まで経験したことがないような激烈な胸痛や頭痛を感じる、意識が遠のく、急に息苦しくなった場合には、迷わず救急車を呼びましょう。頭痛というのは、脳卒中の可能性もあるからです。放散痛は、左肩やのど、みぞおち、背中の痛みが比較的短時間のうちに広がります。しかし、真夜中は救急車を呼ぶのをためらうこともあるでしょう。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話してください。看護師か医療知識のある人が、電話口に出て、相談に乗ってくれます」

 -まずは、冷静に判断、対処することが大事ですね

 「多くの人は、日頃『私は病気ではない』と思って生きている。まさか心筋梗塞だとは思わず、翌日のんびり歩いて病院に来られる方もいます。まれに胸痛のない心筋梗塞もありますが、非常に重大な病気です」

 「胸痛や放散痛の経験者は、自分の体に何が起こっているのか分かると思います。問題は、初めて経験する人です。『あれ、なんだかおかしい』『どうもただことではない』と思っても、そのままやり過ごしてしまうことがある。心筋梗塞を実際に経験した患者さんは、『本当に死にそうな気がした』と答えます。もし、そんなふうに感じたのであれば、安静にして休み、何時であろうと救急車を呼んだほうがいい。救急車を呼ぶ場合は、まず家の鍵を開け、目立つように明かりをつけます。固定電話から119番に電話すれば、住所を言えなくても逆探知してくれます」

  ◇  ◇

 心筋梗塞などの心臓病の場合、激しい胸痛を感じるというのは容易に想像できる。しかし、胸痛ではなく、他の部位に、別の病気を思わせる症状が出ることもある。何かいつもと違う、しかし救急車を呼ぶのはためらわれる。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話して相談してみよう。

◆大槻俊輔(おおつきとしほ)近畿大学医学部附属病院脳卒中センター教授。神戸大学医学部卒業初期研修後、大阪大学医学部、米国国立衛生研究所、国立循環器病センター、広島大学病院をへて現職。脳卒中やてんかんなどの神経救急を専門。

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