7歳のトイプードルを飼っておられるAさんが来院されました。「急に、ほんとに急に、たくさん水を飲んで薄いオシッコを何回もするようになったんです。夜に見てると10回以上もオシッコに行ったんですよ」
お話をうかがうと、これまでずっと、ペットショップで勧められたという「プードル専用」のドライフードを食べていたのですが、2か月前にあまり食べなくなり、困ってホームセンターで売っていた「美味しそうな」フードを購入して与えたところ、ものすごくモリモリ食べるようになったそうです。
「でも、その原材料を見ると一番最初に「穀類」とあるし、あまり良いフードじゃないんだろうなーとは思っていたのですけど...まさか糖尿病になったんじゃないでしょうか?もうそんなことになったらどうしましょう(泣)」と心配のご様子。
Aさんは以前飼っていた犬が糖尿病になり、何年もの間、ご自分で朝晩注射を打たれており、それがとても大変だった記憶を思い出されたご様子で、糖尿病に対してとても敏感になっておられるようでした。その犬は、お父さんが毎晩晩酌をしながら自分のおかずや酒の肴をテーブルの下でコッソリ与え続けた結果、糖尿病になったのでは?とAさんは考えておられました。
最近では、「やっぱり食べるものはとても大事だ。それは人間も犬も同じ。買い物をするときは裏の原材料表示をよく見て買わないと」と思うようになったとのことでした。まず、ドッグフードは原材料表示の一番最初に書いてあるものが基本的には量的に一番多く使われている原材料で、犬は肉食動物なので穀類よりも肉が一番多いものが良い...というのがAさんの知識でした。
おっしゃるように、ペットフードの原材料表示は、使用したすべての原材料を、添加物以外の原材料と添加物に分けて、①添加物以外の原材料、②添加物、の順に、多い順に表示することになっています。
そして、原材料表示の一番最初に肉類が記載されているフードのことを「ミートファースト」と呼びます。これは、原材料の中で肉が一番多く使われているということですが、実はこれには「抜け穴」があるのです。
例えば、ある犬用ドライフードの原材料を見ると、一番最初に「ラム(肉)」があるのでミートファーストだと思うのですが、その次に「米糠」「玄米」と続きます(写真❶)。この米糠と玄米の原材料は米なので合わせると主原料になる可能性があります。本当にミートファーストなのか、あるいはミートファーストに見せるのがうまいだけなのかは、原材料表示を見るだけではわかりません。
Aさんがホームセンターで購入した美味しそうなドッグフードは、ミートファーストではない上に、5種類もの人工着色料が使われていました。この着色料を使って、「飼い主さん」にはとても色鮮やかでいろいろ新鮮な食材が入っていて美味しそうに見えるようになっています。でも、犬自身は色の識別が苦手な動物なのでその鮮やかさは関係ありません。そして、人工的な「旨味(うまみ)」成分が使われているので、そのトイプードルさんにはとても美味しく感じるのでした。他にもさまざまな添加物が使われていました。
一方のトイプードルさんの詳しい血液検査、腹部エコー検査、尿検査には特に異常はありませんでした。水をたくさん飲んで薄いオシッコをしていることは、検査からもわかりましたが、なぜ水をたくさん飲むのかは今回の検査ではわかりませんでした。
私は、フードを変えて症状が出たのであれば、悪く言うつもりはないのですがそのフードを与えるのをやめてみては?とお話ししました。そして、当院のおすすめのフード(穀物が少なく添加物も少ないもの)の小袋をお渡ししました。
数日後、Aさんから連絡が入りました。
「初診日に、食事を替えて様子を見ましょう、と、ご指導いただきましたが、食事の内容で水を飲む量や尿の回数に影響するなんてことは無いやろうなと、少し信じ難い気持が有りましたが、おっしゃられるようにフードを変えてみました。そうしましたら、何ということでしょう、今日は、水を飲む量が減ったようで、尿の色は以前と同じに見えます。度々、トイレに動くことも無くなり、落ち着いております。ありがとうございました」と。本当に良かったですね。
ペットフードに使われている原材料や添加物について、普段から知っておくことも大切です。こうしたペットフードの選び方や犬猫の食事については、加工食品ジャーナリストの中戸川貢氏との共著『ワーストペットフード』でも紹介しています。
▽『ワーストペットフード これだけは知っておきたい「あぶないフード」「安全なフード」の見分け方』(中戸川貢・小宮みぎわ著、ユサブル刊)。四六判、216ページ。定価1,980円(税込)。
◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。