「実際に被災した我が家で、『あってよかった』と感じたもの」
そんな言葉とともに、災害時に役立った備えを紹介したInstagramの投稿が注目を集めています。
投稿したのは、熊本県宇城市で5代続く家族農家「お米とより」さん(@okometo_yori)。家庭用蓄電池や太陽光発電、ポータブル電源をはじめ、プレハブ、大型タンク、簡易シャワーなど、実際の被「経験していないとできない備え」災生活を支えたものを紹介しました。
投稿には、「大変参考になります」「後回しにせず見習いたい」などの声が寄せられています。
同家が災害に見舞われたのは、今回が初めてではありません。10年前の地震では自宅が半壊。昨年は大雨による水害で床下浸水し、雨が降り続くなか、床下に入った水をポンプでくみ上げ続けました。屋外の洗濯機などの家財や、田んぼに置いていたポンプ、農業機械も浸水し、故障したといいます。
そして今回、最大震度7を観測した熊本地震に見舞われました。
自宅の2階で生活できず、農業機械も故障
熊本地震で家族は全員無事でしたが、自宅は大きな被害を受けました。2階では生活できなくなり、座敷にも傾きが生じています。
10年前の地震後にリフォームした場所にも、大きなひびが入りました。余震が続くなか、「家中のひびが日ごとに濃くなっているように感じます」といいます。
農業設備の被害も深刻でした。乾燥機2台のうち1台が大きく損傷したほか、籾摺り機や色彩選別機なども故障。代掻きのやり直しや、水が出ない場所へのポンプ設置、機械の修理が必要となり、農作業に大幅な遅れが生じました。
ライフラインは停電が約3日間、断水は約3週間と3日間続きました。
80代の祖父母のため「我慢すればいい」ではなく
実家で暮らしているのは、50代の父母と、父方の80代の祖父母の4人。投稿者さんは普段、実家を離れて暮らしていますが、農作業や米の販売を手伝うため、月に1回ほど帰省しています。
父親が災害への備えについて話すとき、最初に口にするのは「高齢の両親がいるから」という言葉だそうです。
「父と母だけなら多少不便でも何とかできるかもしれませんが、80代の祖父母と暮らしているため、そうはいきません。『自分たちが我慢すればいい』ではなく、祖父母もできるだけ無理なく生活を続けられる環境を確保することを大切にしてきました」
自宅で過ごすことが難しくなった今回、生活の拠点になったのは敷地内のプレハブでした。車中泊ではなく、エアコンを使いながら足を伸ばして眠れたことを、祖父母も大変ありがたく感じていたといいます。
太陽光で発電、夜は蓄電池と発電機を併用
同家には、容量16.4kWhの家庭用蓄電池と、合計約10.33kWの太陽光発電設備があります。
停電中は、昼間に太陽光でつくった電気を使いながら、余った電気を蓄電池へ。夜は蓄電池と発電機を併用しました。
ただし、発電機は音が出るため、近所への配慮から使用は午後9時ごろまで。その後はポータブル電源などに切り替え、エアコンを動かしました。
投稿者さんは、特定の一つではなく、家庭用蓄電池、太陽光パネル、ポータブル電源、発電機、燃料など、それぞれが状況に応じて役立ったと振り返ります。
電源を確保する方法を1つに絞らず、複数用意していたことが、長引く停電時の安心につながりました。
なお、発電機を屋内や換気の悪い場所で使用すると、一酸化炭素中毒を引き起こす危険があります。必ず説明書に従い、安全な場所で使用する必要があります。
断水で最も大変だった「毎日の水汲み」
3週間以上に及んだ断水生活で、特に大きな負担になったのが水の確保でした。
家族は山の湧き水を汲み、大型タンクに貯めて生活用水として使用。手洗いや炊事には、蛇口付きのポリタンクを活用しました。
水を入れた容器は、非常に重くなります。投稿者さんは、力に自信のない人には、無理なく持ち運べる10~15リットル程度の小さめのポリタンクが現実的だといいます。
足腰が弱い祖母には負担をかけないよう、両親が農作業をしている間は、主に投稿者さんと祖父が水汲みに向かいました。
洗濯には、家にあった水汲みポンプを利用。入浴についても、身の回りにあるものを組み合わせて簡易シャワーを作り、後に電動ポンプを使って自宅で身体を洗える環境を整えました。
トイレは、古屋に昔ながらの汲み取り式トイレが残っていたため、断水中も使用することができたそうです。
普段20分のスーパーまで、最長1時間
食料の確保にも苦労しました。近隣のスーパーはなかなか営業を再開せず、普段なら車で約20分のスーパーまで、道路状況の影響で45~60分ほどかかる時期もありました。
親戚が届けてくれた食料や、防災支援センターからの支援物資、自宅にあった備蓄品などで、厳しい時期を乗り越えたといいます。
さらに、長引く断水生活では、身体を清潔に保つための品も役立ちました。
投稿者さんが実家へ持っていった、手袋型の水のいらないシャンプーやフェイスマスクなどのケア用品は、家族から好評だったそうです。
「水を自由に使えない生活が長引くと、身体を清潔で快適に保つものも大切だと感じました」
「防災用品として売られているものだけが備えではない」
今回の経験から感じたのは、市販の防災用品をそろえることだけが「備え」ではないということでした。
農作業用の道具を本来とは異なる用途に使うなど、身近なものを活用。父親は手元にあるものを見ながら、「使えないか」「代用できないか」と考え、さまざまな道具を組み合わせて生活を支えました。
また、余震への恐怖や自宅の損壊、長期の断水が重なり、家族の心身には疲れが蓄積していきました。投稿者さんは家の中まで暗い雰囲気にならないよう、できるだけ明るく元気に振る舞うことを心がけたそうです。
「物だけでなく、気力と体力も必要でした。備蓄や設備に加え、身近なものを工夫して使うこと、家族同士で心身の状態を気にかけることも、長期的な被災生活における備えだと感じています」
水は誰が運ぶのか。食料をどう確保するのか。暑さや寒さ、衛生面にどう対応するのか…。
災害への備えは、物をそろえるだけでは終わりません。家族構成や年齢、住んでいる場所を踏まえ、生活が長期間不自由になったときに「誰が、何を、どうするのか」まで考えておくことが大切だと、家族の経験は伝えています。