地方都市で暮らす48歳の会社員、大西めぐみさん(仮名)。73歳の母は一人暮らしをしており、現在は身の回りのことを自分でできています。
大西さんが将来の介護について尋ねると、母はいつも「いざとなったら施設に入るから大丈夫」と答えます。ただ、どのような施設に入りたいのか、費用はどのくらいかかるのかと聞いても、「まだ元気なんだから、そこまで考えなくてもいいでしょう」と話すだけでした。
大西さん自身も、必要になれば施設を探せばよいと思っていました。しかし、知人から「入りたいと思ったときに、すぐ入れるとはかぎらない」と聞き、「施設って、希望すれば入れるものではないの?」と気になり始めました。
介護施設への入所を考えるとき、どのような点を確認しておけばよいのでしょうか。
入所には「条件」と「空き状況」の壁がある
介護施設は、「入りたい」と希望すれば、誰でも、いつでも入所できるわけではありません。本人の心身の状態や必要な介護の程度、希望する暮らし方などによって、選択肢となる施設は変わります。
また、介護施設にはさまざまな種類があり、役割や入所条件も異なります。例えば、特別養護老人ホームは、常に介護が必要で、自宅での生活が難しい高齢者が入所し、日常生活の介護を受ける施設です。新たに入所する場合は、原則として要介護3以上の人が対象ですが、要介護1、2でも、自宅での生活が難しいやむを得ない事情がある場合には、特例的に入所の対象となることがあります。
厚生労働省の調査によると、2025年4月1日時点で、特別養護老人ホームに入所を申し込んでいる要介護3以上の人は、全国で約20万6000人でした。ただし、入所の必要性や緊急性は一人ひとり異なるため、この人数がそのまま「入所待ちの人数」を示すわけではありません。
条件を満たしていても、希望する施設に空きがあるとはかぎりません。本人の状態に対応できるか、希望する地域にあるか、費用を継続して負担できるかなども確認する必要があります。
施設選びの前に確認したい「親が望む暮らし」
「介護が必要になったら、施設に入りたい」と考えていても、その言葉だけでは、本人がどのような暮らしを望んでいるのかまでは分かりません。
できるだけ自宅で暮らし続けたいのか、介護が必要になった段階で、すぐに施設への入所を考えたいのか。住み替える場合も、今の家の近くがよいのか、家族の近くがよいのかによって、選択肢は変わります。
費用や立地、受けられる介護、家族が面会しやすい距離かどうかなど、本人が何を大切にしたいのかを家族で話しておくと、将来の選択肢を考える手掛かりになります。
将来の施設選びは、地域包括支援センターへの相談から
親がまだ元気で、介護認定を受けていない段階では、担当のケアマネジャーがいないこともあります。その場合は、地域包括支援センターなどが相談先の一つになります。
地域包括支援センターでは、高齢者の暮らしや介護に関する相談を受け付けています。相談するときは、現在の健康状態や生活の様子、本人がどこで暮らしたいと考えているのか、家族がどの程度支援できるのかなどを伝えるとよいでしょう。
地域の介護施設や介護サービスについて聞き、将来介護が必要になった場合の相談先や手続きの流れを確認しておくこともできます。
いざというときあわてないために、今できること
大西さんは母とあらためて話し合い、「できるだけ今の地域で暮らしたい」「一人での生活が難しくなったら、施設も考えたい」という希望を確認しました。そのうえで、母が住む地域の地域包括支援センターに相談し、地域にどのような施設があるのか、費用はどの程度見込んでおけばよいのか、入所を考える段階になったら、どこへ問い合わせればよいのかを聞きました。
さらに、母と一緒に、自宅から通いやすい場所にある特別養護老人ホームを見学しました。見学した施設では食事の試食もあり、母も「実際に入所したときの暮らしが想像しやすい」と話しました。居室や共用スペースを見ながら、費用や入居条件、介護が必要になった場合の支援内容も確認しました。
すぐに入居先を決めたわけではありません。それでも大西さんは、「そのときになってから探せばいい」と考えていたころより、母がどのような暮らしを望んでいるのか、施設を選ぶときに何を確認すればよいのかが具体的になったといいます。
介護が必要になる時期や、そのときの空き状況を、あらかじめ予測することはできません。だからこそ、元気なうちに本人の希望を聞き、地域の選択肢を知り、必要に応じて実際の施設を見ておくことも、将来に備える方法の一つです。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。