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「この生活は普通じゃない」モラハラ夫に怯える愛犬を守らなければ……腹をくくった女性の再出発

古川 諭香 古川 諭香

「この子は大人しくて甘えん坊。大抵のことは、大好物のきゅうりで誤魔化せます(笑)」

愛犬わらびちゃんの愛くるしさをそう語るのは、飼い主あつみ(a.wa_ra_bi)さん。

実はわらびちゃん、あつみさんの救世主。夫からのモラハラに苦しむあつみさんに、新しい人生を歩むきっかけを与えてくれたのだ。

経済DVと軟禁…愛犬の怯える姿で気づいた異常さ

結婚後の2年間、あつみさんは働くことや経済的な自由を奪われる経済DVを受け、外出も禁じられた。軟禁に近い生活の中では子どもができないことを理由に、「女として生きてきて子どもができないなんて、何が楽しくて生きてるの?」「女としての役割を果たしてないよね」と生きている意味まで否定されたそうだ。

ただ、当時のあつみさんはモラハラ被害者という自覚を持てずにいた。一般的なモラハラ被害者と同じく、「嫌だと思っても私が我慢すればいい」「私にも悪いところがあるのかもしれない」と思い込まされ、自由やお金を制限される生活が続くうちに、自分の感覚に自信が持てなくなっていったのだ。

「この人から離れたら、どう生きていけばいいのかという不安もありました」

そんな考えが変わったのは、あつみさんの実家の犬が危篤状態になった時だった。家族同然の実家の犬。帰郷したいと伝えたあつみさんに対し、夫は「は?犬のために帰るの?」と冷酷な言葉を浴びせた。

「その言葉を聞いた瞬間、私はわらびや、将来生まれるかもしれない我が子のことまで考えました。わらびに何かあった時も、この人は同じ反応をするのだろう。そして、我が子が苦しんでいる時も同じような態度を取るのではないかと思ったんです」

そんなことを考えていた時、目に入ったのは、いつも夫の顔色をうかがい、尻尾を下げて怯えながら過ごしているわらびちゃんの姿だった。

「自分だけなら耐え続けられたかもしれません。でも、わらびまで怯えながら生きていると気づいた時、『この生活は普通じゃない。ここから出なければ』と目が覚めたんです」

夫が不倫で家出 「泥沼の離婚」から自立を掴むまで

ところが、離婚の決意を固めた後、夫の不倫が発覚。夫は勝手に家を出ていき、行方をくらませた。

「弁護士を間に入れ、離婚について話し合いました。慰謝料で揉め、精神的にも経済的にも大変な時期でした」

突然、自分の力だけで生きていかなければならなくなると大きな不安に襲われる。だが、あつみさんは強かった。「これからは自分でどうにかしよう。今までも何度もどうにかなってきたのだから、今回もきっとどうにかできる」と腹をくくったのだ。

強い覚悟を持てたのは、わらびちゃんがいてくれたから。「わらびのために、私がどうにかする」と自分を鼓舞した。

まずは生活を立て直すため、コールセンターで勤務。だが、ちょうど世間はコロナ禍に。あつみさんはもともと持っていた通信やスマホの知識を活用し、ライブ配信などをしつつ、少しずつ仕事を広げていった。

「自分自身の生活については、食費をケチれば痩せられるし、水と味噌とプロテインあれば生きられると前向きに考えていました(笑)」

仕事探しの上で重視したのは、わらびちゃんを自由にトイレへ連れて行ける環境であることだった。元夫と暮らしていた頃、わらびちゃんはたまたま粗相をしてしまい、あつみさんは元夫に激しく怒られた。その姿に心を痛めたのか、家の中でトイレができなくなったのだ。

「私が外で働いていると、わらびはトイレを長時間我慢してしまい、何度も膀胱炎になりました。一度の恐怖体験が、体や行動に長く影響を残してしまい、本当に申し訳ないです」

経験を糧に起業!同じように悩む女性たちへの就労支援

あつみさんはその後、これまでの経験で培った通信やスマホの知識を活かし、2021年頃から通信関連の代理店事業に携わるように。2023年には自身の会社を設立した。

「今はスマホや通信に関する講師活動や教材制作、AI・DXツールの活用支援などを行っています。わらびのそばで働きながら、自分の経験や知識を誰かの役に立てられるようになりました」

あつみさんが特に力を入れているのは、「特別な経験やスキルがない」と思い込んでいる女性たちへの就労支援。その人の経験を仕事に繋げ、自分で収入を得る方法を身につけるためのサポートを行っている。そうした経緯や想いはnoteでも配信している。

「AIなどの新しい技術も、自分の可能性を形にするための味方になると伝えています。できることから始めれば、人生はつくり直せると伝えたい」

「救われたのは私のほう」大切な愛犬と共に生きる今

わらびちゃんは、現在12歳。加齢に伴って足腰が弱くなり、立っているのが難しい時もあるが、周囲をよく観察する繊細さは変わらず持っている。

「甘えん坊で食いしん坊で、表情豊か。食べ物が絡むと急に積極的になります(笑)。人が大好きで、大勢の人がいると全員に挨拶回りするんです」

失敗しても絶対に責めず、安心できる環境を築き続けたことで、わらびちゃんは離婚後、「家の中でトイレをしても怒られない」と認識してくれました。ただ、外で用を足す習慣は消えず、今も基本的には外でトイレをしている。

「どうしても我慢できない時は、家の中でもしてくれるようになりました。『家でしてはいけない』から、『外でしたい』という感覚に、少しずつ変わってきてくれたのかもしれません」

一度植え付けられた恐怖や思い込みは、動物であってもすぐ消えるものではない。だからこそ、あつみさんはわらびちゃんのペースを尊重しながら暮らしている。

「私がわらびを守ったつもりでしたが、振り返れば、わらびがいたから私は家を出る決心ができた。救ってもらったのは、私のほうでした。わらびがいなければ、離婚後、私は命を絶っていたと思いますし」

そう語るあつみさんは、今まさにパートナーからのモラハラやDVに悩んでいる人へ「すぐに離れられない自分を責めないで」と伝える。

経済的な不安や恐怖がある中で「家を出る」という選択をすることは、当事者にとって現実的に不可能と思えるほど難しいこと。だからこそ、周囲から「なぜ逃げないの?」と言われても、すぐに動けない自分を責めないでほしいと訴える。

「ただ、『自分が我慢すればいい』と思い続けていると、自分だけではなく、大切な家族や動物まで同じ空気の中で生きることになる場合があります。まずは誰かに話す、使える制度を調べる、少しずつお金を準備するなど、小さな行動から始めてほしい。あなたの感覚や苦しさは、誰かに否定されていいものではありません」

尻尾をあげて伸び伸び暮らせるようになったわらびちゃんと、大切な存在を守るために勇気ある一歩を踏み出したあつみさん。ふたりの今に触れ、自分の守り方を考えたくなる人は多くいるはずだ。

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