先日、当院に来られた男性Aさんは、年齢は60代後半あたりで、仕事帰りなのかワイシャツにプレスの入ったズボン、くしできれいになでつけられたシルバーグレイの髪が印象的な紳士でした。お話をうかがうと、以下のようなことでした。
家の前に子猫が落ちていた。朝、いったん家に戻ったときに気づいた。お昼にまた家に立ち寄ったとき、まだそのままの状態で、お母さん猫はその子猫を取りに来ず、砂利の上に転がっていた。とても暑い炎天下、このままだと死んでしまうのでは?と思って保護した。猫を飼ったこともないし、この子を育てる気も全くない。困っている。昼間は仕事で家にいないし、妻も仕事で昼間は家には誰もいない。誰か育ててくれないかと思ってペットショップに電話をしたけれども、動物病院に行ってと言われた。
ということで、連れてこられたのは生後2~3週間で体重180g、目ヤニだらけのやせ細った白茶トラの子猫ちゃんでした。脱水もあり、しはらくミルクをもらってないようで、体温も下がりぐったりした様子でした。Aさんは、「育てられない」「うちでは無理です」の一点張りでした。
でも私は心の中で「これは猫の神様が仕掛けたヤツやわ。Aさんはきっとこの猫を飼ってくれて、すぐにこの猫に夢中になるやろ...」と思いました。
「このくらいの年齢の猫を育てるのは、人間の赤ちゃんと一緒ですよ。人間の赤ちゃんを育てたご経験はおありですか?」とお聞きすると「いや、ないです」とおっしゃいました。私は「なかなか手ごわいな...」と思いつつも、子猫の扱い方についていろいろ説明を始めました。
Aさんは「預かってもらいたいけど、いったいいくらぐらいかかりますか?」と質問をされました。が、私はスルーしました。「これは神様が、Aさんが飼ってくれると思って家の前に落としていったんですよ、きっと」「昼間はお仕事でしたら、職場に連れて行ける環境ですか?であれば連れて行って、皆に面倒見てもらってください。かわいいから、里親さんもすぐに見つかりますよ!」と私はお話ししました。でも「仕事は現場なんです、無理です、連れていけません」と、Aさんは抵抗されました。
「そうですか...どうしましょうねぇ」と私がお話ししている間、そのガリガリ子猫は、私が持っているシリンジからミルクを飲みました。途端に急に元気になり、私の指を力強く吸ってきました。頑張って生きようとしている子猫に、Aさんは次第に態度を和らげたようで、気づけば、まずはご自宅に連れて帰るというお話になっていました。
病院を出られるころには、「3時間おきくらいにミルクをあげればいいですね?」と、おっしゃいました。「きっとこのまま飼うことになるだろう...」と、私は確信しました。
2日後、当院のLINEに「猫は元気です、おしっこがあまり出ていないので心配しております、診察をお願いします」と連絡が入りました。私は携帯電話の前でガッツポーズしました。そして、Aさんは今度は奥様と一緒に診察に来られました。奥様は育児ノートもつけておられて、名前も8月にライオンの子供のような猫がうちに来たということで、レオ君(男の子でした)と決まったとのことでした。
まだ2日しか経っていないというのに、Aさんは「いやー、生活がガラッと変わりましたわ。まずはこの子の食事が先です。」とすごくうれしそう...めでたし、めでたしでした。猫の神様、ありがとうございますぅ!
◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。