大分県由布市湯布院町にある「喫茶去Cafe動真庵(どうしんあん)」は、山奥にひっそりとたたずむ「お寺カフェ」。近くを流れる川のせせらぎや野鳥のさえずりが心地いい。ここでは庵主で住職の久保田働山(どうざん)さん(51)の飼い猫、ハチワレの「蓮(れん)」(オス、推定13歳)と真っ白の「シロ」(オス、推定7歳)の2匹が、やってくる人たちを出迎えている。かつてはサラリーマンだった働山さん。四国でお遍路をするなどして生き方を模索。その後出家し山梨や大分・日出町の寺で修行したのち、独立してこの地に居を構えた。日ごろの悩みを打ち明けるお客さんもおり、働山さんは夫人、そして猫たちとともに寄り添う。2匹との出会いや店内(寺内)での様子などについて、働山さんに話を聞いた。
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働山さん(以下同) 2012年にここをオープンし、蓮はその1年後にやって来ました。ある日突然、駐車場から出てきたんですよ。どう迷い込んできたのかはわからないんですけど、ガリガリに痩せていました。最初は、玄関先でご飯だけあげていたんですが、寒くなってくるとかわいそうになり「夜だけ家の中に入れてあげよう」と。当然、その夜だけでは済まず、そのまま家猫になりました。
それから5年後のある朝、蓮が玄関で変な鳴き方をするので、見たらしろがいたんです。痩せ細り、毛もバサバサで、足をケガしていて、玄関の前でうずくまっていました。この子もそれまで周囲で見かけたことがなく、どこから来たかわかりません。突然現れたんですよね。ご飯をあげるとぱくぱく食べ、次第に元気になりました。人なつこくて、かわいくて、接客態度も抜群なので家族に迎えました。
外から見ると普通の民家ですが、奥の仏間にはご本尊の十一面観音像と阿弥陀如来像をお祀りしていて、ここはお寺でもあります。当初はもっとお寺らしくしよう、飲食を頑張ろうとした時期もあったのですが、やっているうちに、固定観念にとらわれず、本当に自分たちがやりたいことができればいいと思うようになりました。
目指しているのは、来ていただいた方の「心がふっと軽くなる場所」です。本来、お寺というのは昔から、人々が気軽に集い、仏の教えを伝えたり、相談を聞いたりして、心の拠りどころとなる場でした。来ていただいた方がランチを食べ、猫たちと接して、気軽にいろんな話をして、「ここに来てよかった」と感じてもらえるような居心地のいい庵でありたいと思っています。
人間関係、仕事、家族、パートナーのこと…。心身が緩むと、普段の生活の中で感じている悩みやモヤモヤも自然に湧き出てきます。私たちと話したぐらいで問題が解決するわけでもないですけど、そういう話題って、なかなか打ち明ける人がいないことも多いんですよね。そこで私たちがよく相談相手になっています。
たとえば、「うまくいかないのはあの人のせい」と他人を責めるのではなく、いま抱えている問題は人のせいじゃなくて、自分自身に原因があるかもしれないよ、という話をしたり、「目の前に壁があって、これ以上どうしても進めない」という方には、一歩引いてみたら横を通れるよ、とアドバイスしたり。仏教の教えには日常生活に根ざした学びがたくさんあるので、その方にとって最も心に残りそうなお話をして、背中をそっと後押しできたらと思っています。
蓮はかつて、元気がない人のそばに寄っていき、じっと寄り添っていました。この人は疲れているなっていうのを感じる力があるみたいです。若いころ、蓮は何も教えていないのに、人がやってくると挨拶して回り、帰るときは玄関まで見送りをしていました。しろがやってきてからは、その役目をバトンタッチ。すると蓮がしていたように、今度はしろが挨拶や見送りをするようになり、今に至っています。最近は歳をとったからか、蓮は涼しい窓際でゆっくり過ごすことが多いですね。人なつこいしろは、わざわざ会いに来られる方もいるほどの人気者です。
私たち夫婦にとって蓮としろは子どものような、かけがえのない存在。2匹とも飼おうと思ったわけではなく、突然ここにやってきてくれたので、もしかしたら仏様が「ちょっと手伝いにいっておいで」と2匹を遣わしてくれたんじゃないかなって。そう思うと、ますます感謝の念がわいてきて、愛おしくなるんです。
【施設名】「喫茶去Cafe動真庵(どうしんあん)」
【住所】大分県由布市湯布院町川西721-1
【定休日】月曜、火曜日(祝祭日の場合は営業)
【インスタグラム】@doushinan