関東に住む50代の会社員・安藤さんは、隣県で一人暮らしをしている76歳の父親を月に一度訪ねています。ある日、父親が玄関の段差でつまずきそうになり、階段でもふらついている場面を目にしました。
父親は要支援1の認定を受けていますが、まだ元気に暮らしています。安藤さんは「転んで骨折する前に、家の中に手すりを設置したい」と考えました。そのことを担当のケアマネジャーに話したところ、「工事を始める前に、介護保険の住宅改修が使えるか確認しましょう」と助言されました。
介護保険で手すりを付けられる?住宅改修の対象工事
介護保険の住宅改修とは、要介護または要支援と認定された人が、自宅での生活を安全に続けるために必要な小規模な工事に対して、介護保険から費用の一部が支給される制度です。住宅改修の対象となる主な工事は、手すりの取り付け、段差の解消、滑り止めや移動の円滑化のための床や通路の素材変更、引き戸への扉の取り替え、洋式便器への取り替えなどです。
自己負担割合は所得によって異なり、最大で支給限度基準額(要支援・要介護の区分にかかわらず20万円まで)の工事費用のうち、1~3割です。
先に工事をすると支給されないことも
住宅改修を行う際に重要なのは、工事を始める前に必ず相談し、事前申請を行うことです。緊急性が高いなど、やむを得ない事情のある場合には工事完了後に申請することも可能ですが、原則、住宅改修を行う前に申請書を提出する必要があるので、注意しましょう。
▼ケアマネジャーに何を相談すればよい?
安藤さんはまず、父の担当のケアマネジャーに「家の中に手すりを付けたい」と伝え、住宅改修が必要かどうかを相談しました。ケアマネジャーは、父の身体状況や住環境を把握したうえで、どのような改修が適切かを一緒に考えてくれました。また、住宅改修が介護保険の対象になる可能性や、必要な書類の準備についても助言してくれました。
ケアマネジャーの助言を受けて、安藤さんは、玄関と階段に手すりを設置することにしました。施工業者に見積もりを依頼し、工事費用は合計12万円でした。
なお、まだケアマネジャーが決まっていない場合は、親が住む自治体の地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。
▼工事前に必要な申請と書類
申請には、住宅改修が必要な理由を記載した理由書、工事の見積書、改修箇所の図面や写真などが必要です。安藤さんはケアマネジャーに理由書を作成してもらい、見積書や図面を施工業者から受け取って、住宅改修を行う前に自治体の介護保険窓口に事前申請を行いました。
自治体は、提出された書類を審査し、住宅改修が介護保険の対象として適切かどうかを判断します。自治体から承認通知が届いてから、実際の工事が開始されました。
▼工事後に必要な申請と書類、支払い方法
工事完了後、安藤さんは領収書や工事費の内訳書などを持って再度、自治体の介護保険窓口で申請しました。自治体は事前書類と照合のうえ、改修費の支給を決定します。
安藤さんの場合、工事費用12万円に対し、父の自己負担割合は1割でした。自己負担額は1万2000円となり、残りの10万8000円は介護保険から支給されました。
工事費用の支払い方法は、自治体によって異なります。申請した額が後から口座に振り込まれる「償還払い」が一般的ですが、自治体によっては施工業者へ直接支払う「受領委任払い」を利用できる場合もあります。事前に自治体の窓口で確認しましょう。
また、施工後の申請から改修費の支給までには、自治体にもよりますが、1~2カ月ほどかかるのが一般的です。
▼施工業者の選び方
住宅改修の施工業者は自由に選ぶことができますが、介護保険の住宅改修に詳しい業者を選ぶことで、手続きがスムーズに進みます。
ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、住宅改修の実績がある業者を紹介してもらえることがあります。複数の業者から見積もりを取り、費用や工事内容を比較することもおすすめです。
どんな工事でも対象になるわけではない
住宅改修の対象となるのは、あくまで「日常生活の自立を助けるために必要な小規模な工事」です。バリアフリー目的ではない大規模なリフォームや、新築・増築工事は対象外です。また、本人が居住していない住宅(別荘や子どもの家など)の改修も対象外です。
事前に、ケアマネジャーや自治体の窓口で、対象となる工事かどうかを確認しておくことが大切です。
親の家に手すりを付ける前に相談を
安藤さんの父親は、自宅に手すりを設置したことで、より安心して生活できるようになりました。笑顔が増えた気がすると、安藤さんもほっとしています。
親の転倒が心配になったとき、手すりの設置や段差の解消といった小さな改修が、けが予防や自宅での暮らしやすさにつながります。対象となる工事について事前申請を行い、認められた場合は費用の一部が支給されます。工事を始める前に、まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、介護保険の住宅改修が利用できるか確認しましょう。
【出典】
・厚生労働省 介護保険制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
・厚生労働省 介護保険における住宅改修
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000111679.html
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。