「生命のような作品です」
約15年前、「ムカデ」と検索すると予測変換で名前が出て来た男。米国で活動する日本人俳優・北村昭博(47)その人だ。
オランダ・イギリス合作のホラー映画『ムカデ人間』が、日本上陸15周年を記念して8月21日より4Kリマスター版として公開される。
人間の口と肛門を繋げて究極の生命体を創る。そんな願望を抱くマッドサイエンティストが、3人の男女を繋げてムカデ人間をクリエイト。
撮影当時28歳の北村は関西弁ヤクザのカツロー役をオーディションで勝ち取り、日本人として、いや人類として初めてムカデ人間の先頭を任されるに至った。
「高校卒業と同時に渡米し、世に出たい気持ちはありながらも何をやっても売れない無名時代。どんなに頑張ってもチャンスに恵まれず、今振り返っても当時は本当に辛かった。『ムカデ人間』はそんな僕にとって20代最後のチャンスでした」
アドリブでまさかのキス
とはいえ撮影の段階ではどの程度の規模で劇場公開されるのか、そもそも劇場公開されるのかも未定だった。しかも内容が内容だけに、相手の顔と尻を結合させた完成形ムカデ人間の姿を目にした若手オランダ人スタッフが恐怖で泣き出したり、マッドサイエンティスト役のドイツ人俳優ディーター・ラーザーが暴走したり。話題に事欠かない撮影現場だったという。
「ディーターさんが役に入り過ぎて、ムカデ人間になった僕を本物のムカデ人間ペットと勘違い。本番中にいきなりキスをしてきた。最悪すぎてもう終わった…と思いました。でも僕としては『絶対にチャンスを掴む!』と意気込んでいたので、負けないぞとブチギレ返しました。流石にディーターさんは監督とプロデューサーに注意されて反省していましたが」
撮影から1年後。完成した映画は数多くのジャンル系映画祭で熱狂的に迎え入れられ、CNNやニューヨーク・タイムズなど米国の有力メディアもこぞって取り上げた。『ムカデ人間』ひいては北村の存在もミーム化。日本でも話題になった。
子育てにも活きるムカデ経験
日本での公開から早15年。北村は結婚し、今では一児のパパだ。
「息子が好きな遊びはお馬さんゴッコならぬムカデライドです。3歳の息子を背中に乗せた僕がムカデのように床を這いずり回る。『ムカデ人間』経験が子育てに活きています」
息子が物心ついたら、必ず『ムカデ人間』を観せると決めている。
「そもそもアメリカではカルト映画として知名度が高いので、友達から『お前の父ちゃん、ムカデ?』と言われると思う。最初はイジリの対象として言われてしまうかもしれないけれど、息子には本質を観て欲しいです。お父さんはこんなに熱い仕事をしたんだぞと。だから君も情熱だけは忘れないで欲しいと。息子には誇りをもってムカデイズムを継承したいです」
となると将来はムカデ二世俳優に?
「それはまだ誰にもわかりません。まあ、僕としてはサッカー選手になって欲しいかな」
『ムカデ人間』が名刺代わりとなり、北村は米国で堅調に俳優としてのキャリアを築いている。しかも現在はこれまでのキャリアの中で最も多忙なのだという。そんな良いタイミングでの4K版の日本公開。
「僕は『ムカデ人間』に生命力を感じます。地元・高知には結構デカいムカデがいて、殺虫剤をかけてもなかなか死にません。そんな強い生命力がこの映画にもある。ディーターさん、そして15年前に宣伝・配給をしてくれた伝説的映画人・叶井俊太郎さんも亡くなってしまいましたが、その魂と情熱は作品に残っている。だから時代を越えて再び復活した。僕の演技もNo.1ではないかと思うくらい初期衝動に溢れています。15年前に赤ちゃんだった若者たちが今回の上映で初めて『ムカデ人間』を目撃して何を思うのか?そして『ムカデ人間』が僕にどんな新しい景色を見せてくれるのか?これからも楽しみです」
再びの『ムカデ人間』ブーム到来を待ちわびている。