契約社員として働く52歳の和田真由美さん(仮名)は、夫と大学生の息子の3人で暮らしています。最近、実家で一人暮らしをする78歳の母から生活費が足りないとこぼされることが増えました。母は国民年金のみを受給しており、受給額は月額約6万5千円です。最近足腰が弱り、要支援1の認定を受けて週1回のデイサービスを利用し始めました。それに伴う介護サービス費や通院のための医療費が加わり、家計を圧迫しているようです。ただ、真由美さんも子どもの教育費がかさむ時期であり、十分な仕送りをする余裕はありません。「これからもっとお金がかかるのに、母は年金だけでどうやって生活すればいいのか。私はどうしたらいい?」と、真由美さんは焦りと不安でいっぱいになりました。
年金収入だけで暮らす親の生活費に不安を抱える子世代は少なくありません。親の生活を経済的に支えきれないと悩んだ際、まず確認したいのが、親が住民税非課税世帯に該当するかどうかという点です。さらに利用できる制度を知り、適切な窓口へ相談することで、各種費用の負担が軽くなる可能性があります。
高齢者の貧困リスクと家族の経済的負担の背景
高齢単身世帯の多くが年金収入のみで生活しており、物価高騰や医療費の増加によって生活が立ち行かなくなるケースが増えています。内閣府の令和8年(2026年)版高齢社会白書によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、公的年金や恩給の総所得に占める割合が80~100%の世帯は59.8%に上ります。
年金支給額だけでは生活費が不足する問題は、個人の努力不足ではなく、年金制度の構造や過去の働き方に起因する社会的な課題です。親の生活費不足を子世代がすべて背負い込むと、子世代自身の生活や老後資金まで脅かされる共倒れのリスクがあります。
住民税非課税世帯の確認と負担軽減のための相談先
真由美さんは、実家がある市区町村の地域包括支援センターに電話で相談しました。地域包括支援センターは、直接的な金銭給付の窓口ではありませんが、保健師や社会福祉士、主任介護支援専門員などが在籍する公的な相談窓口で、その人の困りごとに合わせた制度やその窓口へつなぐ役割を担っています。そこで社会福祉士から提案されたのが、母が住民税非課税世帯に該当するかどうかの確認でした。
住民税非課税世帯とは、所得が一定の基準を下回り、住民税が免除されている世帯を指します。この基準は全国一律の法律に基づいていますが、自治体独自の減免措置がある場合や、所得の計算方法が複雑なため、お住まいの市区町村の税務担当窓口で直接確認することをお勧めします。
負担軽減につながる具体的な制度
真由美さんが母と一緒に市役所の税務課へ行って確認したところ、母は収入が国民年金のみで、基準を下回っていたため、非課税世帯に該当することが分かりました。これにより、以下の負担軽減措置を受けられる可能性があります。
▽後期高齢者医療保険料と介護保険料の軽減
まずは後期高齢者医療保険料と介護保険料の軽減です。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度や、65歳以上の介護保険において、住民税非課税世帯に該当すると保険料が軽減されます。また、これらの制度は「自動的に適用されるもの」と「申請が必要なもの」があるため、制度の存在を知るだけでなく、窓口での確認・申請が重要です。
▽高額療養費制度における自己負担限度額の引き下げ
次に高額療養費制度における自己負担限度額の引き下げです。医療費が高額になった場合に払い戻しを受けられる高額療養費制度では、住民税非課税世帯の場合、1カ月の自己負担限度額が一般所得者よりも低く設定されます。また、世帯員の所得により『区分(低所得Ⅰ・Ⅱ)』が細かく分かれています。低所得Ⅰ・Ⅱの区分は、年金収入や住民税の課税状況だけでなく、世帯の状況により細かく分類されます。例えば、低所得Ⅰの場合は入院時の上限額が抑えられるなど、手厚い配慮があります。適用される区分や具体的な限度額は、個別の状況によって判定されますので、必ず健康保険の窓口や市区町村で「適用区分」を確認してください。
▽介護保険負担限度額認定による食費や居住費の軽減
さらに介護保険負担限度額認定による食費や居住費の軽減です。将来的にショートステイや介護施設を利用する場合、住民税非課税世帯であり、かつ預貯金などが一定額以下であれば介護保険負担限度額認定証を市区町村へ申請できます。これにより、施設利用時に発生する食費や居住費の自己負担が軽減されます。
お金のことだから…と躊躇しないで
真由美さんと母は、市役所で非課税世帯に相当するのかの状況を確認しました。その結果、母が各種負担軽減制度の対象になることが分かりました。保険料や医療費の自己負担上限が下がったことで、母の年金内でも生活を維持できるめどが立ちました。真由美さんも自分一人で抱え込まずに相談してよかったと、長年の不安から解放されています。
介護や生活費の問題は、制度を知らないことで経済的な困難という壁にぶつかりがちですが、適切な情報と専門職の支援を得ることで、次の生活へ進むためのつなぎ目に変えることができます。準備に早すぎるということはありません。親の生活に不安を感じた時は、動こうかなと思った今が、最初の一歩を踏み出すタイミングです。まずは親の住む市区町村の地域包括支援センターや行政の窓口へ足を運んでみてください。
【出典】
内閣府「令和8年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2026/zenbun/08pdf_index.html
厚生労働省「後期高齢者医療の保険料について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001255769.pdf
厚生労働省「介護保険の1号保険料の低所得者軽減強化」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001471474.pdf
厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
厚生労働省「令和6年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直しに係る周知への協力依頼について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001266890.pdf
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。