62歳の会社員Aさんには、大学卒業後に上京し、都内の病院で働く28歳の1人娘がいます。年に数回しか顔を合わせない娘から、久しぶりの帰省で結婚の報告を受けたのは、盆休みに実家に集まった夕食の席でした。
相手は同じ病院に勤める内科の勤務医だそうです。娘は「大きな病院で、当直も多いけど安定した職場だよ」と嬉しそうに話します。
Aさんも医師と聞いて安心しましたが、食事のあと妻と2人になったとき「勤務医ってことは開業医とは違うのよね?お父さんの同級生の息子さんは開業して羽振りがいいらしいけど…」と妻が口にしました。
では、勤務医と開業医は収入差や仕事の違いはどれくらいあるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの伊藤亮太さんに聞きました。
同じ医師でも年収は違う?
ー勤務医と開業医では、一般的に年収にどのくらい差がありますか?
開業医の方が年収は高くなる傾向にあります。厚生労働省の調査では、開業医(院長)の年収はおおむね2000万円を超える水準で、勤務医との差が1000万円以上になるケースもあります。
運営主体や診療科によっても幅はありますが、平均で見ると開業医の方が高収入という傾向は、データの上でもはっきり表れています。 ただし、昨今の物価上昇によるコストアップや人口減少の波を受けて開業医でも赤字の病院・クリニックは増加しているため必ずしも高収入とは言えないケースもあります。
ー開業医は勤務医より高収入になりやすい一方で、どのような支出やリスクがありますか?
開業医は、年収が高い分だけ支出やリスクも大きくなります。まず、開業時には物件取得や医療機器の導入でまとまった初期費用がかかり、多くの場合は借入で賄うため、開業後もローン返済が続きます。
また、スタッフの人件費や家賃、設備の維持費などの固定費が毎月発生し、患者数が減れば収入が下がっても、これらの支出は減らせません。年収の高さだけでなく、借入残高と毎月出ていく固定費を見ておくことが大切です。
ー勤務医の場合、収入面や生活の安定性にはどのような特徴がありますか?
勤務医は、開業医に比べると年収の伸びしろは小さいものの、収入の安定性は高いといえます。給与は勤務先の規定に沿って決まり、経営状況に左右されにくいため、毎月の収支を見通しやすいのが特徴です。
借入や設備投資といった経営リスクを負わないため、貯蓄や資産運用、住宅購入といったライフプランを早い段階から計画的に進めやすい立場にあります。
ー勤務医と結婚する場合、家計面で意識しておくと安心なことはありますか?
勤務医は収入が安定しているため、結婚後の家計は比較的見通しを立てやすいといえます。ただし、当直や夜勤が多い勤務形態では、家庭内の役割分担や生活リズムの調整が必要になる場面もあります。
年収そのものよりも、共働きを続けるのか、将来的な転勤や勤務先の変更があるのかなど、2人でどんな暮らし方を望むのかを早いうちに話し合っておくと安心です。
開業医と比べて年収の差はあっても、安定した収入をベースに計画的に貯蓄や資産形成を進めやすいのは、勤務医と歩む家庭の強みだと言えます。
◆伊藤亮太(いとう・りょうた) ファイナンシャルプランナー
慶應義塾大学大学院商学研究科経営学・会計学専攻を修了。在学中にCFPを取得する。その後、証券会社にて営業、経営企画、社長秘書、投資銀行業務に携わる。2007年11月に「スキラージャパン株式会社」を設立。現在、個人の資産設計を中心としたマネー・ライフプランの提案・策定・サポート等を行う傍ら、資産運用に関連するセミナー講師や講演を多数行う。著書・監修本に『図解即戦力 金融業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)、『ゼロからはじめる!お金のしくみ見るだけノート』(宝島社)、『図解 金融入門 基本と常識』(西東社)など多数。
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