40代の会社員Aさんは、長年連れ添った妻と話し合いの末、協議離婚することになりました。せめてもの誠意として、10年前に3000万円で購入し、現在は周辺の開発によって価値が4500万円に値上がりしている自分名義のマイホームを、そのまま妻と子どもに財産分与として譲ることにしました。
ローンの残りもAさんが支払う約束をし、名義変更の手続きも無事に完了。お互いにわだかまりなく、円満に新しいスタートを切ったつもりでした。しかし半年後、Aさんのもとに税務署から「譲渡所得税」として数百万円の課税通知書が届きます。
これを見たAさんは「1円もお金をもらっていないのに、なぜ売却益の税金を払わなければいけないのか」と驚きます。なぜAさんは家を売却したわけでもないのに税金を払わなければならないのでしょうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
お金をもらっていなくても「売った」とみなされる
ー離婚で家を譲った側に税金がかかる理由は何でしょうか?
税法上、不動産を「時価で相手に売却し、そのお金で財産分与の義務を清算した」とみなされるからです。これを「代物弁済」といいます。
Aさんは1円も現金を受け取っていませんが、税務署は「4500万円で家を売り、そのお金で分与義務を支払った」と解釈します。そのため、10年前の購入額である3000万円との差額(値上がり益)である1500万円が「譲渡所得」と認定され、課税対象となります。
タダで譲り渡したつもりでも、購入時より不動産の価値が上がっている場合は、渡した側に譲渡所得税が科されてしまうのです。
ー財産分与の譲渡所得税を避ける方法はあるのでしょうか?
「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除」という特例を利用すれば、税金をゼロにできる可能性があります。
この特例を使えば、譲渡所得から最高3000万円まで控除できるため、Aさんの1500万円の利益に対しても課税されなくなります。ただし、重要なルールがあります。この特例は「配偶者への譲渡」には適用できません。
つまり、離婚届を提出する「前」に家を譲ってしまうと夫婦間の譲渡となり特例が使えません。必ず「離婚が成立した後(元妻になってから)」に名義変更の手続きをおこなうことが、税金を回避するための鉄則です。
ー妻側(もらった側)に贈与税がかかるケースはありますか?
原則として、財産分与でもらった側に贈与税や所得税はかかりません。財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産の清算や、離婚後の生活保障のために行われるものと考えられているためです。
しかし、例外的に贈与税がかかるケースが2つあります。1つめは、夫婦の財産額や婚姻期間に照らして、分与された財産が「多すぎる」とみなされた場合です。その超過分に課税されます。
2つめは、税金を逃れるために「偽装離婚」をして財産を移したと判断された場合です。なお、もらった側には、不動産取得時の「登録免許税」などの負担が別途発生します。
◆正木由紀(まさき・ゆき) 税理士
10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。