Aさんは某家電量販店の店員です。店内のマッサージチェア売り場には「10分まで」と利用時間が掲示されているものの、毎日のように来店し1時間以上利用して昼寝をしている高齢の男性常連客がいます。
彼の影響で、他のお客様がマッサージチェアを試すことができなかったり、彼と同じく10分以上の利用をするお客様が目立ってきたりして、Aさんは悩まされていました。Aさんが彼に軽く注意をしても、「ごめんごめん、年寄りだからすぐ立てないから後で移動するよ」と言いつつ、結局1時間以上はその場を離れません。
Aさんのようなケースで、店側は常連客に対してどこまで利用制限や退席要求ができるのでしょうか。また利用客が応じない場合、法的にはどのように扱われる可能性があるのでしょうか。Authense法律事務所の新町佳史さんに話を聞きました。
Aさんのケースは直ちに違法や犯罪になるわけではないが…
ー家電量販店のマッサージチェアを、掲示された利用時間を超えて長時間利用し続ける行為について、法的にはどのように考えられるのでしょうか。
法的には問題となる可能性があります。もっとも利用時間を少し超えたからといって、直ちに違法や犯罪になるわけではありません。しかし店舗が「10分まで」と利用条件を示している以上、その範囲で利用することが前提です。
毎日のように長時間利用し、他のお客さまの利用機会を奪っている場合は、店舗の管理方針に反する利用と評価されやすいでしょう。マッサージチェアは本来、商品を試すための設備であり、継続的な休憩や仮眠のための場所ではないからです。
ー店側が「利用時間を守ってください」「他のお客さまも利用するため退席してください」と求めた場合、利用客は従う義務があるのでしょうか。
基本的には従う必要があると考えられます。店舗は施設の管理者として、合理的な利用ルールを設けることができます。そのため、事前に示された利用時間に基づいて退席を求めることには相応の根拠があります。
利用者がこれを無視して居座り続けた場合、法的には利用者側が不利になる可能性があります。
ー店側が長時間利用客に対して、利用停止や退店を求めることは法的に可能なのでしょうか。また、どのような点に注意が必要でしょうか。
店側が利用停止や退店を求めることは、原則として可能です。 ただし運用は丁寧であるべきです。
たとえば、利用時間を分かりやすく掲示する、超過時の声かけ基準を統一する、特定の人だけを狙い撃ちにしない、といった配慮が重要です。法的に通りやすいのは、「誰に対しても同じ基準で、穏当な方法で、段階的に対応している」ケースです。
ー注意や退席要求に応じず、居座り続けた場合、威力業務妨害や不退去などの問題に発展する可能性はあるのでしょうか。
悪質な場合には、不退去罪が問題になる可能性があります。店員から明確に退席や退店を求められたにもかかわらず、その後も居座り続けた場合は、刑法上の不退去罪に該当する余地があります。
また、店員の制止を無視して騒いだり、トラブルを起こしたりして売り場の運営に支障を生じさせた場合には、威力業務妨害罪にあたる場合もあるでしょう。
つまり、単に長時間座っていただけではなく、「注意されても居座る」「店の営業に支障を与える」といった行為が加わると、より大きな法的問題に発展する可能性があります。
◆新町佳史(しんまち・よしふみ) 弁護士/Authense法律事務所
これまで企業法務にも携わりつつ、現在は相続、離婚、不倫慰謝料など幅広い分野にも対応。その累計相談件数は1万件を超える。依頼者1人ひとりと真摯に向き合い、言葉にならない思いや背景事情にも丁寧に耳を傾け、本音を引き出す対話を重視。スピーディーかつ友好的な解決へ導く粘り強い交渉力を強みとする。
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