「もし明日、自分が倒れたら、猫はどうなるのだろう」
54歳の女性は、ふとそんな不安を抱くことが多くなりました。
地元の私立大学で事務職として働き、愛猫と2人で暮らしています。一人っ子で両親はすでに他界し、近くに頼れるきょうだいやパートナーはいません。
今は健康に働けており、猫との穏やかな生活を送っています。それでも、夜中に胸の痛みやめまいを感じたとき、「このまま救急搬送されたら、鍵のかかった部屋に猫が取り残されてしまう」と考えてしまうことがあります。
愛猫と暮らすおひとりさまにとって最も切実なのは、「自分に万一のことがあったとき、大切な猫の命をどう守るか」ではないでしょうか。
必要なのは、いつかの老後の備えよりも先に、明日起きるかもしれない事態への準備です。
ここでは、今すぐできることから順番に紹介します。
まず備えたいこと ― 施錠された部屋から猫を救い出す
倒れる場所は、自宅とはかぎりません。自宅で倒れて救急搬送されれば猫は部屋に残され、外出先で倒れれば、誰にも気づかれないまま猫が自宅で待つことになります。
どちらの場合も必要なのは、「気づいてもらう」「家に入ってもらう」「猫を引き継ぐ」の3つの備えです。いずれもお金をかけず、今日から始められます。
まず「気づいてもらう」ための工夫です。
外出先で倒れても伝わるよう、「自宅に猫がいます」と書いたペットレスキューカードを用意しておきましょう。それを、発見者や救急隊員が見つけやすいように、財布などにはさんでおきます。
スマートフォンの緊急情報(メディカルID)に、猫の預け先を登録しておくことも忘れずに。
あわせて、自宅で倒れた場合に備え、「室内に猫がいます」「緊急時にはペットの救助をお願いします」などと記載したペットレスキューステッカーを、玄関ドアなど目につきやすい場所に貼っておくと、発見者や救急隊員が猫の存在に気づきやすくなります。
次に「家に入ってもらう」仕組みです。猫の存在が伝わっても、施錠された部屋に入れなければ助け出せません。
スペアキーを渡せる親族が近くにいないこの女性の場合は、ホームセキュリティ会社の留守宅見守りサービスや、おひとりさま向けの身元保証・見守り契約を活用し、緊急時にスペアキーを預けておく方法があります。
そして「猫を引き継ぐ」準備です。鍵が開いても、その場で猫を保護してくれる相手が必要になります。
地元のペットシッターやかかりつけの動物病院に、緊急対応や数日間の預かりが可能かを事前に相談しておきましょう。
あわせて、ごはんの量と回数、かかりつけの病院、持病や性格の注意点をまとめた飼育メモを冷蔵庫に貼っておくと、引き継ぐ人の負担が大きく減ります。
入院が長引いたときの備え ― 猫を誰に託すか
入院治療やリハビリで数週間、ときに数カ月、自力で世話ができないこともあります。
入院では保証人や緊急連絡先を求められることがあり、近くに頼れる家族がいないこの女性の場合は、身元保証サービスが選択肢になります。
初動で触れたスペアキーの預かりと同じ法人に任せられることも多く、最初の備えとつながります。
猫については、継続して見てもらえる相手を、友人・知人、一時預かりに対応する保護団体などから探しておきます。
大切なのは、事前に「いざというとき、お願いできますか」と合意をとっておくことです。口約束のつもりでも、相手が心づもりできていなければ緊急時には機能しません。
また入院が長引くと、お金の判断や手続きが難しくなることもあります。猫のごはん代や預け先への支払いが止まらないよう、次の3つの契約を知っておくと安心です。
・見守り契約:定期的な連絡や訪問で、体調や生活状況を確認してもらう契約
・財産管理委任契約:入院や体調不良などで手続きが難しいとき、預貯金の管理やシッター代などの支払いを任せる契約
・任意後見契約:認知症などで判断能力が低下した場合に備え、誰にどんな支援を任せるかをあらかじめ決めておく契約
任意後見契約には、猫の飼育管理の継続やペット信託への移行を組み込むこともできます。
将来に備える ― 猫を守り続けるお金と看取り
愛猫を守る段取りを動かすのは、実際に使えるお金です。
まず確保したいのが、生活費とは切り分けた猫専用のお金。
アニコム損害保険の「ペットにかける年間支出調査」(2025年分調査、2026年3月発表)では、猫1匹の年間支出は平均約19万5000円(19万5427円)でした。
出典:アニコム損害保険「ペットにかける年間支出調査」(2025年分調査、2026年3月発表)
猫が高齢になると通院や投薬が増えることもあり、緊急時のホテル・シッター代や終生飼育の初期費用まで見据えておきたいところです。
仮にこの先8〜10年飼育を続けるとすると、年間支出だけで約19万5000円×8〜10年=約156万〜195万円。こうした試算をもとに、150万〜200万円程度を別枠で確保しておくと安心です。
この原資は、固定費の見直しから生み出せます。扶養する家族がいないこの女性の場合、高額な死亡保障を払い続ける必要性は低いことがあります。過大な保障を減らし、浮いた分を猫のための緊急費用に回しましょう。
また、猫のためのお金とは別に、自分自身の老後資金づくりも欠かせません。新NISAを活用した積立投資で、長期・積立・分散により老後資金の土台をつくります。
ただし投資に元本保証はないので、生活費や緊急資金まで回さないことが大切です。
あわせて「ねんきん定期便」で、年金見込み額を確認しましょう。長く働けるなら受給の繰り下げ(66歳以降に繰り下げると1カ月ごとに0.7%増額)で年金を増やし、その分の貯蓄を「猫貯金」として温存する方法もあります。
最後に、自分が先にいなくなる「万一」への備えです。死後事務委任契約に、猫の引き渡し先や連絡先を定めておく方法があります。遺言書と合わせておくと安心です。
引き受け手が身近にいなくても、老猫ホームや終生飼育を行う保護団体という選択肢があります。日本ではペットに直接財産を相続させられないため、飼育費を託す方法として、ペット信託や負担付遺贈が検討されることがあります。
契約内容や費用は異なるため、行政書士・司法書士・弁護士などの専門家に相談しながら進めると安心です。
猫が困らない道筋を、先に作っておく
もっとも大切なことは、自分に何かあったその日から、猫が困らずに済むよう、先に手を打っておくことです。
財布のカードとメディカルIDで猫の存在と連絡先を知らせ、見守り契約でスペアキーを託し、預け先の確保と飼育メモで引き継ぎを整える。
入院中の支払いや猫専用のお金、そして自分が先に逝くときの引き渡し先まで。
この記事で見てきた備えは、どれも今日から一つずつ動かせるものばかりです。
すべてを一度にそろえなくても、手を打った分だけ、猫の安全は確実に増えていきます。
まずは今夜、財布に「猫がいます」の一枚を入れるところから始めてみてはいかがでしょうか。
【監修】財前裕(ざいぜん・ゆたか)1級ファイナンシャル・プランニング技能士 元銀行員・Webライター。銀行員時代には、個人の資産運用や住宅ローン、保険など多岐にわたる金融商品の提案を行い、顧客のライフプランに合わせた最適なアドバイスを提供してきた経験がある。現在FP1級を取得し、Webライターとして、お金に関する記事執筆を担当している。