スプレーアートで古里を彩る新井辰弥さん(39)。京都府宇治田原町内の飲食店や自然公園を訪れると、雄たけびを上げるゴリラや世界の偉人の似顔絵、まちの四季の風景など、壁やシャッターに描かれたスプレーアートが目にとまる。住民の依頼を受けて色鮮やかな作品で古里に彩りを与え、「時間とともに景観に溶け込み、まちと一体となる。美術館と違い、誰でも見て楽しめる『アートの民主化』を実践したい」と思いを語る。
スプレーアートとの出合いは、高校時代に電車の車窓から見かけた「落書き」だった。京都市内へ通学していたある日、線路脇の壁に大きく描かれた女性の人物画が目に飛び込んできた。違法な落書きはまもなく消されたが、顔の陰影などを写実的に描き上げた「かっこよさ」に魅了された。幼い頃から絵を描くのが好きで、街中でストリートアートを見つけては構図や筆致を学び、自宅の壁などで作品づくりに夢中になった。
作品制作では、目の前のもの自体が持つ「美しさ」をありのままに描くことを心がける。京都精華大でデッサンや抽象画、洋画の技法を学び、鉛筆画やアクリル画、洋服、スニーカー、砂浜など多種多様な「キャンバス」で作品を生み出してきた。一見「畑違い」に思えるが、スプレーを噴射する角度や時間を変えることで陰影や質感、グラデーションを表現するなど、現代的なスプレーアートに伝統を生かす。
2021年、ヘリコプター墜落事故で亡くなった米プロバスケットボールNBAの元スター選手、コービー・ブライアントさんの姿を、ファンの一人として2階建ての自宅の壁にスプレーで描いた。SNS(交流サイト)で発信すると、世界中で多くの反響があり、作品を通じて国境を越えたつながりを感じた。
22年には地元の寺で初めての個展を開催。23年には念願の米国で飲食店から制作依頼を受けるなど、国内外に活動の場を広げている。
「作品を通じて『自分の表現』に気が付き、思いを自由に表現する楽しさを感じてほしい」。宇治田原町南。