「私立の中学に行きたい」テレビが変えた娘の進路
「中学受験って、始めるよりやめる判断の方が難しいのではないでしょうか」
大阪府在住のCさんは、小学6年生の娘を見ながらそう感じています。
受験のきっかけは、テレビで見た私立中高一貫校の吹奏楽部の特集でした。全国大会を目指して練習する生徒たちの姿に娘は目を輝かせ、「私もこんなふうに吹奏楽部がある学校に行きたい」と言い出したのです。
娘はもともと音楽が好きでした。
「高校受験を気にせず、6年間同じ環境で演奏したい」
そんな理由から、小学5年生の春に中学受験へ挑戦することになりました。親としても、本人が望むなら応援したい。特別な教育熱心家庭ではなく、ごく普通の親子の決断でした。
待っていたのは想像以上の勉強量
ところが受験勉強が始まると、娘の表情は少しずつ変わっていきます。
最初に驚いたのは通塾頻度でした。
学校が終われば塾へ向かい、帰宅後は宿題。週末も勉強が続きます。
ある日、娘がぽつりとつぶやきました。
「こんなに塾へ行くと思わなかった」
さらに苦しめたのが算数です。
学校では成績が良い方でしたが、中学受験の問題は別世界でした。ある夜、問題集を前に固まっていた娘が突然鉛筆を置きました。
「何を聞かれているのか分からない」
目には涙が浮かんでいました。
受験をやりたいと言い出したのは娘自身です。それでも、追い詰められた表情を見るたびに、Cさんは胸が痛んだといいます。
個別指導塾だから見えなかったこと
娘が選んだのは個別指導塾でした。競争が苦手な性格だったため、順位やクラス分けのない環境を選んだのです。先生との相性も良く、気軽に質問できる環境は娘に合っていました。
しかし思わぬ悩みもありました。自分がどの位置にいるのか分からないのです。
「合格できそうなのか、それとも厳しいのか」
その感覚がつかめないまま時間だけが過ぎていきました。周囲と比べなくて済む環境は安心感がある一方で、目標との距離も見えにくくなる。そんな難しさがありました。
「続けるべきか」が分からなくなる
娘は今も受験勉強を続けています。
ただ、「絶対に合格したい」というわけではありません。
一方で、「やめたい」とも言いません。
ここまで頑張ってきた時間を考えると、親も簡単には決断できません。
中学受験というと難関校を目指す家庭の話が注目されがちです。しかし実際には、「楽しそうな学校へ行きたい」「憧れの学校へ通ってみたい」といった理由で挑戦する家庭も少なくありません。
そんな“ゆる受験”だからこそ、続けるべきか、やめるべきかで揺れるのです。
華やかな合格体験の陰には、誰にも見えない迷いがあります。中学受験ブームの裏側では今日もまた、普通の家庭が静かな撤退戦を続けているのかもしれません。