ある日の夕食後、高校生の息子を持つAさんは、青ざめた顔でスマホを差し出す息子を見て心臓が止まるような思いをしました。画面に映っていたのは、大手焼肉チェーンの店内で、肉につまようじを大量に刺したり、ジュースが入っているコップに備え付けのタレを注いで「罰ゲームで~す」と言って飲んだりしている息子やその友人たちでした。
息子はこれを同級生へのギャグのつもりでSNSに投稿したそうです。しかしこの動画は同級生だけではなく多くの人に閲覧され、瞬く間に拡散されました。そして数日後にはテレビのニュースでも取り上げられる事態となったのです。
この影響で、お店には苦情が殺到し客足は激減しているとニュースでも報道されています。それから数日後、Aさんのもとには企業側からの損害賠償を求める厳しい内容の書面が届くのでした。
息子がやったことで社会に悪影響を与えてしまったことは事実ですが、Aさんはその責任として損害賠償に応じなければならないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
※この記事で紹介しているエピソードは、弁護士がこれまでに受けた相談や、実際に起きた同種の事案をもとに、個人や企業が特定されないよう一部を再構成したものです。
高校生の不祥事に親の責任はどこまで及ぶのか
ー高校生の子供が起こした不祥事に親の賠償責任はありますか
法的には、15歳前後の子供には「自己の行為の責任を弁識する能力(責任能力)」があるとみなされます。そのため。第一義的な賠償責任は行為者である息子本人にあります。しかし、現実的には高校生に支払い能力はありません。
そこで企業側は民法714条に基づき、親に対して「監督義務者としての責任」を追及してきます。親が「日頃から十分に注意を与えていた」ことを客観的に証明できない限り、親が肩代わりして支払わざるを得ない状況に追い込まれるのが一般的です。
ー過去に飲食店での迷惑行為で請求された金額はいくらでしょう
有名な回転寿司店での迷惑動画事件では、企業側が約6700万円の損害賠償を求めて提訴した事例があります。最終的には調停が成立して訴えは取り下げられましたが、実際にこれだけの巨額請求がなされるのは「現実」の話です。
請求の内訳は、店舗の清掃費用や備品の入れ替え費用だけではありません。客足が遠のいたことによる利益の損失や、企業のブランドイメージが傷ついたことに対する損害など多岐にわたります。たとえ10代の子供であっても、行為の悪質性が高いと判断されれば、人生を狂わせるほどの金額を請求されるリスクがあるのです。
ーネットに拡散された動画を消す費用と成功率はどのくらいでしょうか
ネット上で爆発的に拡散された動画を「完全に消す」のは、ほぼ不可能です。特定のサイトに対して削除請求を行うことは可能ですが、その都度、弁護士費用や専門業者への依頼料が発生します。
費用は、数件のサイト削除だけでも数十万円、広範囲になれば数百万円から1000万円を超えることもあります。しかしSNSで個人が保存した動画や、海外サーバーを経由した転載動画までは手が届きません。
削除の成功率は、初期段階であれば高いものの、拡散後の完全消去は「限りなくゼロに近い」というのが現実です。まさに、一生消えない「デジタルタトゥー」として、子供の将来に付きまとうことになります。おふざけの代償は、あまりにも大きいのです。
日ごろから、実際のニュースなどの具体例を挙げながら親子で対話を行うことが大切です。一瞬の気の緩みが家族の人生を奪いかねないことを、根気よく教え続けてください。
◆北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。