優しいと思っていた人から、思いもよらないような恐ろしい言葉が出てきたら、今後その人とどのように接したらいいか分からなくなるものです。大友しゅうまさんの作品『介護士の祈り』では、そんな先輩の意外な言葉に関するゾクッとするような体験が描かれています。
それは、主人公である介護士の女性が久しぶりに元同僚の友人と食事をしていた時のことです。偶然にもかつて同じ職場で働いていた先輩と再会します。その先輩は主人公にとって憧れの存在で、利用者と接するときは両手を合わせて丁寧に挨拶するような人でした。
ただ先輩には、蝶々結びがいつも縦結びになってしまうという欠点がありました。周囲からは「縁起が悪い」と何度も指摘されていましたが、改善されることはなかったのです。
その後、主人公と友人は先輩を交えて会話を楽しみます。そんななか友人がトイレに行き、先輩と主人公の2人きりになった時、主人公は先輩の持っているバッグのリボンがほどけていることに気づきました。
先輩は蝶々結びができないと思っていた主人公は「私、結びますね」と声をかけます。すると先輩は「ううん、大丈夫よ」と答えると、手際よく蝶々結びに整えました。以前はどれだけ指摘されても縦結びしかできなかったため主人公が驚いていると、先輩は笑顔のままで「元々、蝶々結びなんてできるの」と答えます。
その答えを聞き、主人公は「ではどうして職場では縦結びしかしなかったのだろう?」と疑問を抱きます。それに対して先輩は「だって年寄りは早く死んでほしいじゃない?」と答えました。さらに先輩は、「だから縦結びをして両手を合わせていつもお祈りするの。早く死んでくださいって」と語ったのです。
突然の告白に、主人公は理解が追いつかないまま呆然としていると、先輩は店内の高齢客を見ながら「あそこの老夫婦も…早く死ねばいいのにねぇ」と笑顔で口にします。
その後、トイレから戻った友人は「実は夫の祖母が施設に入ることになりまして……」と話し始めました。そして「先輩のいる施設にお願いすることにしました。先輩がいるなら安心してお願いできると思ったので」と続けます。友人の言葉を笑顔で聞いている先輩を見ながら、主人公は複雑な思いを抱えるのでした。
読者からは「回り回って自分に返ってくるぞ…!」や「どんな恨みがあるのか」などの声があがっています。そんな同作について、作者の大友しゅうまさんに話を聞きました。
これまで読んだ体験談の中でも、特にゾッとした話だった
―同作を描かれたきっかけを教えてください。
これまで読んだ体験談の中でも、特にゾッとした話だったからです。
一見すると尊敬できる優しい先輩なのに、ある瞬間を境にその印象が一変する。その落差と衝撃に引き込まれました。
投稿者さんの文章も非常に巧みで、読者の見方が一気に変わる感覚を、漫画でも表現したいと思い制作しました。
―同作に寄せられた読者の反応について、作者としてどのように受け止められていますか。
僕が映画を好きな理由の一つは、自分とはまったく違う人生や価値観に触れられることです。最初は理解できない行動をする人物でも、その背景を知ったり、自分自身がさまざまな経験を重ねたりすることで、見え方が変わることがあります。
この先輩にも、介護士という仕事ならではの苦悩や事情があったのかもしれません。そうした背景を想像すると、単純に善悪だけでは語れない部分もあるように感じます。
もちろん、作品を読んでどんな感想を抱くかは自由です。さまざまな意見や考察をいただけること自体、とてもありがたく思っています。
―同作制作にあたり、読者に注目してほしいポイントがあれば教えてください。
先輩の本音が明らかになった瞬間から、作品の空気が一変していくところです。
それまで抱いていた印象が崩れ、不穏な空気へと変わっていく。その温度差を感じてもらえたらうれしいです。
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