人物が枠から勢いよく飛び出てきそうな大胆な構図のイラストが目を引く。昨年、滋賀県内で開催された国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会で、甲賀市の大会PRポスターやガイドブックの表紙に採用された。
手がけたのは地元出身の心理イラスト作家の世津田スンさん(31)=甲賀市信楽町。交流サイト(SNS)の総フォロワー数約50万人のインフルエンサーで、甲賀市の広報大使1号でもある。
人間心理を映し出す一見ポップな作品は「見る側の心に刺さる作風」と評され、大手食品会社のソーセージCMにも起用されている。イラストレーターとして独立するまで、働きながら心理学を独学で学んだことが生かされている。
「見る人の心をつかむにはどのようにすれば良いのか。心理学を駆使して目指す作品を脳裏に思い浮かべ、そこから逆算して画力と技法を身につけて描く」
そう語る世津田さんが先日、信楽高デザイン系列の授業に初めて講師として招かれた。企画した信楽高デザイン系列長の山崎真理教諭は「描きたいシーンはあるのに画力が追いつかない、突き詰めて考えながら描くのは面倒でつい安易なポーズでごまかしてしまう、という生徒の悩みに答えてもらえれば」と狙いを明かす。
授業は「私の気持ち伝われー! ~絵という名のラブレター~」と銘打ち、1、2年生計23人が参加した。
世津田さんが生徒たちにまず伝えたのは「(絵画が実物にくらべて不自然に見える)破綻をなくすことの重要性」だ。「描く人物や物体の輪郭から見たパーツのバランスやサイズをできるだけ正確に描いてみることが大切。人物を面ではなく立体としてとらえてみよう」と語りかけた。
一人一人の席を回りながら、モデルのように生徒が描く人物イラストのポーズをとり、ペンで生徒のイラストに輪郭を新たに描き加えながら、不自然に見える部分を少しずつ修正していった。
「描く対象を捉える自分の視点をどこに置くのか、高さや向きを考えて」。世津田さんの指摘を受けて、それまで平板な印象だったイラストが魔法のように浮き出てくることに、生徒たちは「すごい」「分かりやすい」と感銘を受けていた。
世津田さんは社会人野球の投手だったという異色の経歴の持ち主でもある。190センチの長身から繰り出す直球を武器としたが、肩を壊した。引退後に心の支えになったのが中学3年から趣味で描いていたイラストだった。
「目標に向けて地道な努力を重ねていくという野球で培った思考は今の仕事に役立っている。絵を描くのに必要な技法を身につけるための基礎的訓練を続けていくことは苦にならない」
生徒たちには「目指す夢があるのなら、そこに向かって努力を続けていけば、それが将来の仕事にもつながる」と語りかけた。
2年の女子生徒(17)は「『布をモデルにして、布のしわや陰影のある部分を描くように背景を描けばいい』と教わった。人物の背景をどう描くか悩んでいたけど、思いもよらなかった発想でした」と驚いた。
山崎教諭は「地元出身のクリエーターとして第2弾、第3弾と授業を続けていただければ」と期待を寄せる。世津田さんも「前向きに考えております」と意気込む。