ルネサンスから近現代までの名画が並ぶ「西洋絵画400年の旅―珠玉の東京富士美術館コレクション」が、京都市左京区の京都市京セラ美術館で開かれている。このほど、美術に造詣の深い俳優の片桐仁さん(52)が会場を訪れた。美術大学出身の片桐さんお気に入りの作品や、おすすめの見方とは?片桐さんと展覧会会場を歩いた。
会場には約80点の作品が並ぶ。多摩美術大学出身で、粘土造形作家としての顔を持つ片桐さん。会場で、お気に入りの作品はあったのだろうか。
片桐さんが、まず足を止めたのは歴史画エリアだ。馬にまたがったナポレオンを描いた「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」。片桐さんが「ダヴィッド工房の作品の小ささが目に付きます」。ナポレオンと聞いて、だれもがイメージするおなじみの絵だ。会場には縦73センチ、横59センチの絵画が飾られている。
「実際に見ると『思ったより大きい』『思ったより小さい』などと感じて面白い。その絵の迫力が感じられます。写真で知っていても本物を見ると、油絵は特に色味が気になります」と、実物で見る妙味を語る。
ナポレオンの時代、まだカメラは普及していない。「すごいカリスマがいるぞ、とヨーロッパ中にばらまいたのでしょう。絵でこういう人がいますよと知らしめなきゃいけない」と、時代背景から小ささの理由を推察する。
絵はがきみたい
次に向かったのは、風景画の一画だ。足を止めたのは、イタリアの画家カナレットの「ヴェネツィア、サン・マルコ広場」だ。
「絵はがきみたいな絵で、きっちり人物を描きこんでいる。見れば見るほど引き込まれていく絵です」
「ヴェネツィア、サン・マルコ広場」は広場を取り囲む聖堂や宮殿、そして人物が精密に描かれた、まるで写真のような一枚だ。「建物の中の人物まで描き込まれていて、マニア性を感じます」
「ゴーギャン(ゴーガン)ぽくないゴーギャンがありますね」。ゴーガンはタヒチなどに取材した、明るい色彩の絵が思い浮かぶが、「水辺の柳、ポン=タヴェン」はフランス・ブルターニュ地方の村を描いている。強い風が吹いているようで、どこか寂しさを感じさせる作品だ。
片桐さんが初めて美術展に行ったのは、小学6年のときだという。ゴッホの展示だった。「1枚の絵を100人くらいが、ぎゅうぎゅうになって見ていました。父親に前に行けと、ぐいぐい押されてました」。
地元の子に…
建築に携わる父親の影響もあって、中学生からは絵画を習い出す。「高校の美術部で、千葉県に写生旅行に行きました。地元の女の子に『お父さん、見て。すごい下手』って言われました。あれは衝撃でした」
油絵を描こうと、多摩美術大を志す。合格したのは版画科だった。「油絵落ちた人、日本画落ちた人、グラフィック落ちた人が主に来る学科でした。5浪の人もいました」
絵画の専門教育を受けたことは、影の部分もあるという。
「美大行っちゃったことによって、絵画の技法を知っちゃっている。こういう構図で、こういう背景があってと考えてしまう。絵を見るって何だろうと思います」
展覧会は、前半の「絵画の『ジャンル』と『ランク付け』」と後半の「激動の近現代」の2部で構成されている。「前半は肖像画とか風景画とか、ジャンルごとに価値付けがあったというお話ですね。後半は近代になって、そういう価値観が崩れていって画家の個性が出たということだと思います」と、片桐さんは分析する。
その上で、お笑いのジャンルで独自の見立てを披露する。「前半は歌舞伎や文楽といった伝統芸能です。あるいは名人たちのベタで鉄板な芸です」と解説。「後半はそれをずらしていって、笑いや演劇になる。個性が見えてくる。いわば『大喜利』ですね」。お題を与えられ、自身のセンスで面白さを競うバラエティー番組の「大喜利」―。片桐さんらしくユニークな感性で展覧会を評した。
さらに肖像画のようだが、顔部分にリンゴが描かれたマグリットの「観念」を念頭に「顔にリンゴが浮いた絵を普通は描かないわけです。自分のタレント性をアピールする絵になっている。そこまで『大喜利』が進むとは」と言及。近現代の作品を「型」から進化した個性の発露、とする独自の解釈を語った。
1周目は字を読まず見て
さて、今回の展覧会会場は京都市京セラ美術館だ。周辺は片桐さんが好きな場所で、同館には何度も訪れたことがあるという。「緑が多いし、東山もきれいに見えるし。昔の建物をリフォームして使ってるっていうのが、いいですね」
片桐さんは、同館で開催中の特別展「日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970」の会場も訪れた。「もちろん時代がちょっと後なので、全然この人たち(「西洋絵画400年の旅」の画家)の弟子はいないんですけど、絶対に影響を受けている。(2つの展覧会を)同じ日に見られるっていうのは、面白い価値観だなと思いましたね」と満足そうだ。
「多くの人は絵を10秒も見ていない。キャプションを見てるんです」という片桐さん。おすすめの鑑賞法はあるのだろうか。
「僕は展覧会を2周することにしています。1回帰って、別の日にもう1回来ることもあります」
今回の展示でも、23点の作品を解説する音声ガイド(700円)がある。
「1周目は我慢してキャプションを読まない。文字の情報を頭に入れない。音声ガイドも聞かない。でも、2周目はキャプションも読む。音声ガイドは3周目でもいいです」
「1周目に『うーん。これ分かんないわ』って思っても、2周目になったときに1回見た絵が『あれ、こういうことだったんだ』っていう体験が面白くなるので、ぜひぜひやってほしいですね」
「西洋絵画400年の旅-珠玉の東京富士美術館コレクション」は5月24日まで。月曜日休館。観覧料が必要。京都市、京都新聞など主催。