チョコレートケーキが二度と食べられなくなる。
食べるな危険
ニコラス・ケイジ怪演炸裂の『ロングレッグス』(2025年)で世界中をチビらせたオズグッド・パーキンス監督が、またやった。
5月29日公開の『KEEPER/キーパー』は、鬱蒼とした森に閉ざされた別荘が舞台の山荘ホラー。恋人への疑心暗鬼を募らせた女性に襲い掛かる怪異は、妄想か、それとも過去からの怨念か。
甘いひと時を悪夢に変えるのは、ウエルカムフルーツならぬウエルカムチョコレートケーキ。姿を見せぬ謎の管理人からのプレゼントというそれを、恋人の勧めるままにリズ(タチアナ・マズラニー)は口にしてしまう。
チョコレートケーキというスイートな食べ物をトラップにした理由を、オズグッド監督はこう説明する。
「これから口にする食べ物の中に、得体のしれない怪しいものが入っているのではないか?そのような疑問は誰しもが持つもの。本作においてリズが食するケーキにおぞましい秘密があるという仕掛けは自然な流れでした」
便器の中にあるやつ
真夜中に目を覚ましたリズは、何かに憑りつかれたかのように残りのチョコレートケーキをむさぼり喰う。鷲掴みで一心不乱に…。ケーキはケーキでも、ショートケーキやモンブランではなく真っ黒なチョコレートケーキにしたのは、オズグッド監督ならではのブラックなこだわりだ。
「ケーキはケーキでもチョコレートケーキを選んだ理由…これを言っていいのかどうか迷うところですが、要するに便器の中で見る事の出来る“あれ”のメタファーですね。チョコレートケーキの味について『クソみたいな味だ』というセリフが出てきますが、それは“酷い味”と“排泄物”というWミーニングです。チョコレートケーキ好きの方、ゴメンナサイ」
そんなとんでもない代物を爆食してしまったからか。リズの神経はささくれ立ち、恋人のマルコム(ロッシフ・サザーランド)への不信感とも繋がってパラノイア度数は急上昇。その背景に、医師である恋人の人知を超えた秘密があるとは知らずに…。
「この映画で僕が描きたかったのはToxic Masculinity(有毒な男性性)の犯罪性です。世の中にはアップデートしていない男が多すぎます。僕は現在52歳で、今の時代に合わせながら生きていこうとしていますが、時には昔ながらの悪しき慣習を引きずってしまっている事もあるわけです。意識して変革していこうとは思うものの、それは幽霊のようにぼんやりと自分の中に存在してしまう。この映画を通して、私たちが加担してきた男性的なものや家父長制に対する悔恨を表現したかったのかもしれません」
ホラー映画のサブジャンルの一つである典型的山荘ものかと思いきや、根底には男尊女卑への反省と啓蒙があったとは。
ストライキのお陰で
物語の入り口と出口が「思っていたのとは違う」自由な作風はオズグッド節といえそうだが、脚本にはカナダ人のニック・レパードがクレジットされている。サメとシリアルキラーのコラボ作『デンジャラス・アニマルズ 絶望海域』を手掛けた人物なので、ある意味似た者同士なのかもしれないが、『KEEPER/キーパー』の制作過程には苦肉の策から生まれた“自由”があった。
オズグッド監督は『ロングレッグス』で世界的ヒットを飛ばした直後にスティーヴン・キング原作のオモチャ猿ホラー『THE MONKEY/ザ・モンキー』(2025年)を手掛けた事になっているが、撮影順では『KEEPER/キーパー』が先だった。ハリウッドの大規模ストライキで『THE MONKEY/ザ・モンキー』の製作がストップした空き時間を利用して『KEEPER/キーパー』は急遽産み落とされたらしい。
「急に作る事になったので配役、場所決め、テーマ、脚本開発など映画作りに関わる全てが同時進行でした。制作費と時間はベリーベリーベリー少なかったものの、それゆえに偉い人がいちいちチェックする暇もなく、創造性という意味ではかなり自由でした。これまで以上にライブ感たっぷりの映画作りで現場全体の仲間意識も高い。自分らしい映画ではあるものの、作品全体のトーンで参考にしたのはロバート・アルトマン監督の『三人の女』です。エレガントかつ重層的で儚い夢を見ているかのような感じ。そこに影響を受けました」
異才が自由に作った珍味を召し上がれ。