人気コミックを原作とする映画『正直不動産』。連続ドラマから劇場版へと躍進を続ける本作の裏には、原作コミック原案者である夏原武氏を唸らせた制作陣の確かな手腕が存在する。長年にわたり数々の作品に携わってきた夏原氏に、本作の映像化がこれほどの完成度を誇る理由と、エンターテインメントとしての魅力について語ってもらった。
■世界観を深化させる脚本の妙
自らが携わった物語が実写化される際、原作者や原案者は、特有の期待と緊張を抱くものだ。専門的な業界を描く以上、事実と異なる描写が懸念されるが、本作においては台本に目を通した瞬間にその不安は払拭されたという。
「私が携わった作品が映像化されるのは今回で4作品目ですが、漫画とは異なり、実在する生身の人間が演じるため、設定をどう処理するのか毎回楽しみにしています。本作の脚本を担当された根本ノンジさんは、原作の持ち味を生かしながら、ドラマとして成立させるための追加エピソードやシーンの構成が非常に秀逸です」
既存の物語を再構築する作業は、原案者自身に新たな気づきをもたらすほど精緻なものだった。
「例えば、『あのシーンをここに持ってくるのか』『別々のエピソードを繋ぎ合わせて一つのドラマにするのか』と、逆にこちらが勉強になるほどでした。以前私が手がけた『クロサギ』は完全に闇の業界の話だったため事実と異なる描写も生じがちでしたが、不動産業界という表の業界を描く本作に関しては、事前チェックの段階で指摘すべき点がほとんど見当たりませんでした。原作の世界観を一切壊さない手腕には、卓越した才能を感じます」
■2時間に凝縮された現代の社会課題
スクリーンという限られた枠組みの中で、社会の暗部や最新の時事問題を破綻なく織り込む作業は至難の業を要する。しかし、本作の制作チームは時代が求めるテーマを的確に抽出し、見事なバランスでエンターテインメントに落とし込んでいた。
「映画の脚本の初稿を見た時点で、非常に巧みな構成だと感心しました。今まさに社会で起きている投資トラブル、例えば『みんなで大家さん』騒動のような、ほとんど詐欺に近い事案にはぜひ触れてほしかったのですが、それも「海外不動産」のエピソードとして、しっかり組み込まれています」
特定の事象に留まらず、多角的な視点から現代日本の歪みを浮き彫りにするアプローチも高く評価している。
「さらに、地方創生に絡む大規模開発、賃貸事情、そして若者が直面する経済的な苦悩など、今取り上げるべき課題が網羅されていました。制作陣が『今描くべきこと』を正確に掬い取り、それを見事に2時間という枠に収めている点に感銘を受けました」
■主演・山下智久が切り拓いた新境地
魅力的なキャラクターたちが織りなす人間模様も、本作が多くの支持を集める要因の一つだ。
「もともと原作漫画は、人を啓蒙する目的ではなく、純粋にエンターテインメントとして楽しんでいただくことを第一に考えています。その『笑えて泣ける』という要素を、映画版でも見事に表現してくれました。完成した作品を見た原作漫画家・原作脚本家も非常に感動して喜んでおり、私自身も大きなスクリーンで、できれば風を浴びながら4Dで体感したいと思うほどです」
中でも、主人公の永瀬財地を演じる山下智久の表現は、既存のパブリックイメージを大きく拡張し、作品に関わる原作者たちをも熱狂させた。困難な役どころを見事に演じ切る姿勢は、共演者との相乗効果を生み出し、作品全体の質を確固たるものにしている。
「特に主演の山下さんは、本作を通じて高い喜劇的素養を証明したと感じています。二枚目やニヒルな役柄の印象が強かった彼が、ここまで観客を笑わせることができるのかと、役者としての進化に驚かされました。専門用語が飛び交う長台詞など演じる上でのハードルは決して低くないはずですが、彼を含む個性豊かなキャスト陣の確かな演技力が、作品の完成度を押し上げています」
不動産業界のリアルな実態をエンターテインメントに昇華させた本作。原案者である夏原氏が惜しみない賛辞を送る背景には、原作への深い理解と、時代を的確に捉えた制作陣の熱量が存在する。昨今、漫画やアニメの実写化には、さまざまな問題が浮き彫りになっているが、ある意味で理想的な関係と言えるだろう。笑いと涙、そして社会課題への鋭い視点が融合した映画『正直不動産』は、観る者に極上の面白さと新たな気づきを与えてくれるはずだ。