IT企業で外部パートナーとして働く30代のAさん。契約書上は「業務請負」となっていますが、その働き方は正社員とほとんど変わりません。毎朝9時の朝礼への参加を義務付けられ、業務の進め方も上司から細かく指示されます。
「プロとして現場になじまなければ」と無理をしてきたAさんでしたが、徐々に不安が募ります。業務上のトラブルが起きても会社側は「契約外だから」と責任を取ってくれず、残業代も一切支払われないからです。
こうした「偽装請負」は問題にならないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
「時間を売る」のが雇用「成果を売る」のが請負
――そもそも「偽装請負」と「正当な委託」の決定的な違いは何でしょうか?
1番大きな違いは、「時間を売っているのか、成果を売っているのか」という点にあります。
通常の雇用契約は、労働者が自分の時間を提供し、会社の指揮命令に従って働くものです。一方、請負契約は成果物の完成に対して報酬が支払われるものであり、会社側には労働者に対する指揮命令権がありません。
請負契約でありながら、会社が業務の進め方を細かく指示したり、勤務時間を管理したりする行為は、本来は雇用契約を結ぶべき状態です。これを請負の形で行うのが「偽装請負」であり、職業安定法や労働基準法に抵触する可能性があります。
――指示や時間の拘束は、どこまでなら許容されるのでしょうか?
請負契約において、発注者が受注者に対して「何時までにどこへ来て、この手順で作業しろ」と命令することは、原則として認められません。
例えば、毎朝の朝礼への強制参加や、日々の作業工程に対する直接的な指導は、明確な指揮命令にあたります。昔のIT業界では客先に常駐してデスクを並べ、社員と同じように働く例が多く見られましたが、今ではその多くが偽装請負として厳しくチェックされるようになっています。
正当な請負であれば、受注者は自分の裁量で仕事を進める自由が保障されていなければなりません。
――偽装請負で働く人には、どのような法的リスクや不利益がありますか?
最大の不利益は、労働基準法による保護(最低賃金や残業代、有給休暇など)や労災保険が適用されないリスクです。会社側は、社会保険料の負担や雇用管理の手間を省くために偽装請負を利用する側面があります。
ただし、2024年施行の「フリーランス新法」により、請負であっても労働者に近い権利が一部認められるようになりました。具体的には育児や介護との両立への配慮、ハラスメント対策の義務化、不当な買いたたきの禁止などが明文化されています。
偽装請負は依然として違法ですが、請負という立場であっても、かつてのような「全くの無権利状態」ではなくなっています。
――今の働き方に違和感を抱いているAさんのような人は、どう対処すべきでしょうか?
まずは「実態」を証拠として残すことが大切です。上司からの細かな指示内容がわかるメールやチャットの履歴、朝礼への参加記録、さらにはタイムカードに準ずる時間管理のログなどを集めてください。その上で、労働基準監督署などの公的機関に相談することをお勧めします。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。