仕事を失い、あらためて友禅と向き合った
その後、タカハシさんは大学時代の友人に誘われて友禅教室を訪れ、働きながら学び始めます。並行してフラダンス教室にも通い、自分ならではの表現を模索する中で、「ハワイの風景を友禅で表現する」というテーマへと行き着きました。
「友禅を学び始めてから8年後、講師の免状をいただくことができました。それからは仕事をしながら制作を続ける日々。当時はまだ、友禅は趣味の延長線上にある活動でした」
仕事と友禅。穏やかな日々を過ごしていたタカハシさんに、大きな転機が訪れます。
「コロナ禍になり、勤務先が事業を終えることになって仕事を失いました。今後の身の振りに思い悩むうちに、心の不調も抱えるようになって…大きな喪失感に包まれました」
そんな中で「自分の好きなことは何か」と問い直すようになったタカハシさんは、「もう一度、友禅制作としっかり向き合おう」と決めました。
「SNSなどで作品を発表するようになると、フォロワーや友人たちから応援の声が届くようになりました。それが大きな支えとなって、心の不調も徐々に和らいでいきました」
そうして、礼拝堂への思いを掘り起こすきっかけが訪れます。
「今行かなければ」 礼拝堂への思いが再び動き出した
制作に打ち込む中で、「染色を通して社会と関わっていきたい」という思いを抱くようになったタカハシさんは、趣味起業コンサルタントの戸田充広さんと出会います。
「戸田さんのもとでマーケティングを学ぶ機会を得ました。さまざまなクリエイターやアーティストが集い、2023年春にニューヨーク、秋にパリのギャラリーでグループ展が開かれることになったんです」
タカハシさんはニューヨーク展には作品のみを出展。そしてパリ展を迎えるにあたり、ある思いが込み上げてきたといいます。
「パリ展では、現地で自分の作品を見届けたい。一念発起して、姪の成人式のために制作した振袖を自分の手で展示するため、渡仏を決意しました」
ところが、ヨーロッパも一人旅も初めて。不安は大きかったものの、「行く」と腹をくくったその瞬間、30年前の記憶がよみがえってきました。
「日本から行くとなるとハードルは高いけれど、パリからなら行けるかもしれない。何より、今行かなければ、一生行かないままになる、そう思いました」
この「今しかない」という直感が、礼拝堂への道筋をひらいていきました。
「礼拝堂に行く」 現地在住の日本人女性との出会いで実現へ
礼拝堂を訪れる決意を固めたものの、具体的な行き方がわからず、計画はまだ夢のような状態…。そんな中、一筋の光が見えてきます。
「決めたら不思議なもので、数年前に礼拝堂の近くで通訳や観光案内をしている日本人女性の紹介記事を読んだことを思い出したんです。それが、小川裕子さんとの出会いでした」
小川さんはノルマンディー地方在住で、フランス労働省認定の観光カウンセラー免状を持ち、現地で旅のコーディネートをしています。タカハシさんは思い切って相談してみることにしました。
「事情を話したところ、小川さんが礼拝堂へのアテンドを申し出てくださいました。さらに、初めて海外へ一人旅をする私のために、空港での手続きやパリ市内のホテルへの移動方法、地下鉄の乗り方をはじめ、気候や服装、防犯に関するアドバイスまで、項目別に整理した資料を送ってくださいました」
小川さんの助けを得て、礼拝堂への訪問計画は着実に進み、2023年10月、タカハシさんはついにフランスへと旅立ちました。