自分の意志に反して浮かぶ考え(強迫観念)から生まれた不安を和らげようと、特定の行動を繰り返す「強迫性障害」。漫画家・やかしま雪さん(@KJTOY)は20年にわたって強迫性障害と生きてきた経験を、セミフィクションコミック『強迫性障害を抱える母親の日常』で描く。
高校生の頃に強迫性障害を発症した、やかしま雪さん。母親になり、我が子という存在ができたことで、強迫性障害の症状や苦しみの形は変化していった。
高3で強迫性障害を発症…疾病恐怖や加害恐怖に苦しんで
――強迫性障害を発症した経緯は?
やかしま雪さん:おかしいと思い始めたのは18歳の頃。大学受験の時期、身近な人の大病を機に症状が出始めました。最初は、体温を何度も測定するという確認行為。徐々に、疾病恐怖や加害恐怖が顕著になっていきました。
――強迫性障害により、どんな生きづらさを感じてきましたか?
やかしま雪さん:私の場合は、外出が辛かった。階段やエスカレーターで「誰かを突き落とした?」「誰かを怪我させた?」と考え、誰もいない階段や床を見つめ続け、動けなくなりました。
――それが、「加害恐怖」というものなんですね。
やかしま雪さん:はい。怪我人がいないと分かっていても、それが信じられません。帰宅後には、その場所で事故が起きていないか、ニュースを検索していました。
――「疾病恐怖」とは、どのようなものなのでしょうか?
やかしま雪さん:加害恐怖は家を出なければ起きませんが、疾病恐怖は身体がある限り、終わりません。鼻づまりや軽い転倒、虫刺されなど、普通の人なら死を連想しないことから大病を疑い、症状をネット検索。これが永遠に続きます。
“我が子”という守るべき存在ができたことで生まれた恐怖とは?
――母親になってからは、どんな症状が出るようになりましたか?
やかしま雪さん:心配すべき大事な身体が2倍になったという感覚です。例えば、寝ている子どもが身体を震わせると、「痙攣?脳にダメージ?」と不安になり、症状をネット検索したくなります。
――お子さんの前では意識されていることはありますか?
やかしま雪さん:「強迫性障害の症状を子どもに見せない」を夫婦の目標にして、子どもを迎える前に強迫性障害を抑える訓練をしました。不安時には薬を服用し、感じた恐怖をネット検索せず、笑顔で子どもと過ごせています。
ただ、強迫観念が辛くても笑顔でいることを苦しく感じることはあります。
――設定された目標は厳しいもののようにも思えますが、自身の確認行為に家族を巻き込まないことも強迫性障害と上手く付き合うには大切なことなんですよね。
やかしま雪さん:はい。夫などの他者に「大丈夫だよね?」と確認するのは、自身の代わりに他者に確認をさせる巻き込み行為になります。
――家族などを巻き込むと、過度な要求などが起き、家族の疲弊や関係性の悪化に繋がって強迫性障害が悪化するケースもあるそうですね。ご自身は、どうやって恐怖を落ち着けているのでしょうか。
やかしま雪さん:とにかく恐怖を無視し続けます。1カ月もすれば恐怖は薄まり、落ち着いてきます。そのうちに大体の風邪は治りますし、不安の原因がなくなっていることも多いです。
ただ、恐怖を無視し続けている間にも新たな恐怖は生まれるので、常に数件の恐怖を抱えています。
――恐怖を無視し続けるのが辛い時は、どうやって気持ちを落ち着けていますか?
やかしま雪さん:私の場合は、大量の揚げ物をします。下準備をしっかりして、揚げている時間はラジオを聴きます。胃はもたれますが、気は紛れます。
グレーな考えを許して楽しい趣味を探すことは“強迫観念”を和らげるカギに
――心が楽になったり、強迫観念が薄れたりした治療法などはありますか?
やかしま雪さん:薬もたくさん試しましたが、私の場合はノート治療が合っていました。強迫性障害の症状への対応を「悪かったところ」「良かったところ」で文章にまとめて採点し、ノートに記録する治療です。
あと、不潔恐怖も少しあるので、怖いことは起こらない、大丈夫だと身体に覚えさせるため、ドアノブを無理やり握り、手を洗わず我慢するという訓練もしています。
――Xで配信されている『強迫性障害を抱える母親の日常』は、どのような経緯で描かれたのでしょうか?
やかしま雪さん:エッセイ漫画や4コマ漫画を描くことが好きで、さまざまな人々の人生の困難や葛藤が描かれているKADOKAWAの『シリーズ立ち行かないわたしたち』の新人賞に応募し、『朝起きられない私と強迫性障害』が入賞したからです。
――Xでは、受賞作や新作の『強迫性障害を抱える母親の日常』の他に、『育児中ですが、私の持病は強迫性障害です』という作品も公開されていますね。
やかしま雪さん:はい。いずれも別作品で主人公も別人ですが、強迫性障害を患う母親というテーマは共通しています。
――当事者だからこそ感じている、強迫性障害と上手く付き合っていくために大切なことを教えてください。
やかしま雪さん:緩く考え、楽しい趣味を探すことです。私は何にでも白黒つけたがる性格なのですが、「まぁいいか〜」や「グレーでもいいか!」と思える気質は強いなと。
恐怖を無視するため、気を紛らわせられる楽しい趣味が多いことも大切だと思います。
――自身と同じく、強迫性障害を抱えながら我が子と向き合っているママさんに向けて伝えたいことはありますか?
やかしま雪さん:強迫性障害が子どもに影響しないかと心配するお母さんは多いと思います。私もそうです。誰にも相談できない、事情を知らない人から強い言葉を言われるなど、色んな方がいると思います。
人それぞれ事情があるから、「頑張り過ぎないで」とか「お子さんを第一に考えて笑顔を心がけて」なんてメッセージは送れません。私は「え!?強迫性障害!私もなんです!一緒だね!」という言葉で寄り添いたいです。
漫画で知識を伝えつつ、疾患と向き合いながら子育てに励むやかしま雪さん。その姿は、孤独の中にいる当事者や家族に深く響くだろう。