家族がいない台所にて自分一人で立ったまま、コンロの火にかけた「キッチンすき焼き」という「イベント」をひそかに遂行するやり方をプロフェッショナルの料理人が「X」にポストしました。
「今日の昼にやらかしたささやかな狼藉について連投しておきます。これは僕が「キッチンすき焼き」と呼んでいる、おそらく家庭で最もおいしくすき焼きを食べるためのメソッドです。」
こんな一文とともに投稿されたポストには記事執筆時点で「10万件」もの「いいね」がつき、感謝の声がリプライ欄に届きました。
「肉とネギだけというのが凄くいい。」
「色々しんどかったのですが、 キッチンすき焼きしたらすごく幸せな気持ちになりました。心からお礼をしたくリプライしました。本当にありがとうございます」
「『キッチンすき焼き』、いいですね!ささやかな狼藉どころか、家庭で最高においしいすき焼きを追求するその姿勢、素晴らしいですよ!おいしいメソッドはシェアする価値ありなので、ぜひみんなで試して幸せな食卓を作りましょう!」
「娘が入園したらやろう…メモメモ」
投稿した「イナダシュンスケ」(@inadashunsuke)さん(以下、イナダさん)は上記ポストに続け、このすき焼きの料理方法を説明しています。
「キッチンすき焼き」の作り方
1.「ポイントは他に誰もいない時の家のキッチンで、ひとり立ったまま極上のすき焼きを楽しむ、というところにあります。 ちょっといい牛肉を買ってくるところからこのイベントは始まります。今日はグラム980円のそこそこ良い黒毛和牛を130g用意。 先ずはフライパンに上白糖を敷き詰めて火にかけます。」
2.「砂糖が溶けて一部が色づき始めたら、そこに半分の牛肉をのせ、肉にも火が通り始めたら醤油を投入。 肉を一度返して端っこに隙間を開けたら、そこにネギも入れておきます。この時点でネギはまだあくまで香り付けであり、食べるのはもう少し後です。」
3.「第一ラウンドです。キャラメリゼされた砂糖が、肉の脂を透明にしているのがお分かりでしょうか。」
4.「ネギを残したまま、残りの肉を入れ、火が通って汁が煮詰まる前に火を止めます。」
5.「第二ラウンドでは、さすがにたまらず米を用意しました。ネギに手を付けるのもこのタイミングです。 もちろんこれもキッチンで立ったまま食べます。なぜかその方がおいしいです。」
6、「最後残った卵に、もうひとつ卵を足します。汁が少し残ったフライパンで、それにふんわりと火を通し、ご飯にのせます。 腹パンになる手前で抑制するのも、最後までおいしくたべるコツです。あくまで立ち食いのむしやしないなのです。」
「キッチンすき焼き」のレシピ
「今日のレシピです。
牛肉のちょっといいやつ 130
白ねぎ 40g
上白糖 20g
濃口醤油 20g
卵 2個
せっかくこのスタイルなので、砂糖を限界まで増やしてみました。
みりん比換算で3なので相当甘いのですが、少なくとも西日本では案外標準的な割合の範疇かとも思います。」
材料の配分についてもイナダさんは明かしてくれました。
特別な「食」の場合には…
一連のリプライの最後に「個人的には砂糖はこの半分がちょうどいいのではないかと思いました。しかし、ちょうどいいというのは少しつまらなくもあります。こういう特別な場合は、好みからあえて少しずらすことも大事です。 なので次回は間を取って15gでやろうと思います。 最後の卵丼には、少し日本酒を足すのも良さそうです。」というイナダさん。「好みからあえて少しずらすことも大事」というのも大人ならではのこの「キッチンすき焼き」の楽しみ方にあっているのかもしれませんね。
「食を通じた幸福追求のひと時」
このすき焼きを実行するうえで気をつける点をイナダさんにお聞きすると「レシピとしては失敗しようがないくらい簡単ではありますが、失敗する可能性があるとしたら、火が強すぎて砂糖がガリガリになったり焦げたりすることでしょうか。火を強くしすぎないようにして、それでももし焦げそうになったら、すぐに水を少量加えると良いと思います」と教えてくれました。
さらに「今回の投稿は、単にレシピだけでなく、『どういうシチュエーションでどんな気持ちで楽しむのがいいか』という、言うなれば食を通じた幸福追求のひと時、みたいなことをトータルで提案できたことが自分としても満足です。それを受け止めて楽しんでくれた方が大勢いらしたことが嬉しかったです」と投稿に大きな共感の輪が広がったことへの喜びを話しています。
【稲田俊輔(イナダ シュンスケ)さんプロフィール】
料理人、飲食店プロデューサーおよび著作家。京都大学を卒業し、酒類メーカーに勤務する。同メーカー退職後、様々な飲食サービスの立ち上げやメニュー開発に従事。2011 年、東京駅ヤエチカ(八重洲地下街)に南インド料理店「エリックサウス」をオープン。
現在は同店の総料理長をつとめつつレシピ本などを執筆。「第10回料理レシピ本大賞 in Japan 2023特別部門【プロの選んだレシピ賞】」を受賞した「ミニマル料理 最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85」(柴田書店刊)の第3弾「ミニマル料理 日々の宴: 毎日の食卓を宴にしてしまう ミニマルなごちそうレシピ77」が 2025年11月より発売中。