ビジネスの世界で荒波を泳ぎ切り、たどり着いた道は空き家が増える古里の活性化だった。西田孝臣さん(71)は京都府亀岡市宮前町にUターンし、移住を促進する「かめおか里山ネットワーク」の会長を務める。人に救われた過去が、地域や住民に尽くしたいとの思いにつながっている。
大学卒業後の1977年、大手流通企業に就職した。管理部門を経てアミューズメント事業を担当し、商業施設で宇宙戦争を体感できる人気アトラクションの「ワンダーウォーズ」を手がけた。2000年には飲食事業者に転籍。石焼きビビンバをチェーン展開して実績を残した。
だが、苦境が待っていた。会社が2006年に投資ファンドに買収されると、新たな社長に就任。ファンドは多額の指導料を求める一方、新規出店を禁じて経営はじり貧に陥った。
約200人の従業員を抱え、「投げ出すことはできない」。取引先や金融機関の協力を得て、正月も休まずに出資企業探しに奔走した。会社の資金が尽きる寸前、紹介を受けた韓国企業が手を上げ、傘下に入って再生を果たした。「いろいろな人に助けられた」
退職後の2016年、亀岡市本梅町にある湯の花温泉の旅館「京都・烟河(けぶりかわ)」の営業顧問に迎えられた。2019年には生まれ育った宮前町宮川に単身で移住。友人宅が空き家になるなど、山里の空洞化が進む現実を知った。
「50年もたてば、古里が消えてしまうかもしれない」。できることはないかと思案し、2023年に地域活性化に取り組む団体をつなぐ形で里山ネットを立ち上げた。亀岡の魅力を伝えるサイト「かめおか里山ナビ」を始め、本格移住の前に田舎暮らしを体験できる賃貸住宅「桑山邸」を今秋に完成させた。
新型コロナウイルス禍以降、山里の暮らしに価値を見いだす若い世代が増えたと感じている。都市部との距離が近い亀岡は十分なポテンシャルがあるといい、来訪者を増やして「第2の古里」と愛着を抱いた人が移住するサイクルを思い描く。
「現役時代の恩返しではないが、人生の最終盤は地域のために活動したい」。多くの人が力になってくれるといい、支え、支えられる喜びを実感する日々だ。「自分自身、とにかく楽しんでいます」と顔をほころばせた。