トランプ政権によるベネズエラへの武力行使とマドゥロ大統領の拘束は、世界に激震を走らせた。しかし、ロシアはこの事態を単なる主権侵害として批判するだけでなく、自国の戦略的優位を確立するための絶好の好機と捉えている。
プーチン政権にとって、今回のベネズエラ軍事介入は「米国こそが国際秩序を破壊している」という決定的な証拠であり、ウクライナにおける自国の軍事行動を正当化するための強力な論理的武器となるからだ。
「二重基準」の批判と軍事行動の正当化
今回の軍事介入におけるロシアの主張は、極めて一貫している。米国が麻薬対策や民主主義を大義名分に他国のリーダーを拉致・連行することが許容されるならば、ロシアが安全保障を理由にウクライナへ介入することも同等に認められるべきだ、という論理だ。
これまでロシアは欧米のダブルスタンダードを繰り返し非難してきたが、今回のベネズエラ介入はその象徴的な事例として利用される。ロシアは自国の行動を、国際法の破壊ではなく、米国が主導する「弱肉強食の現実」に対する正当な適応であると国内外に印象づけることに成功するだろう。
「勢力圏の再分割」に向けた揺さぶり
また、今回の事態はウクライナ情勢をめぐる外交交渉にも影響を及ぼす。米国が「新モンロー主義」に基づき西半球での絶対的な支配権を誇示するのであれば、ロシアもまた旧ソ連圏において同様の主張をできる、という理屈だ。
米国がベネズエラでの支配を既成事実化させようとすればするほど、ロシアはウクライナ侵攻を「大国間のパワーバランスを保つための不可避な防衛策」として正当化し、長期戦を維持する政治的基盤を固めることになる。
エネルギー戦略とグローバル・サウスの抱き込み
資源面においても、ロシアは新たな対抗手段を手に入れた。ベネズエラという世界屈指の産油国が実質的に米国の管理下に置かれようとする中、ロシアはブラジルや中国などと連携し、「米国のエネルギー覇権」に対する反対勢力の形成に尽力することだろう。資源ナショナリズムを煽ることで、グローバル・サウス諸国の米国離れを促し、結果として西側諸国によるウクライナ支援の枠組みを揺さぶる狙いだ。
トランプ政権によるベネズエラ介入は、図らずも国際法の権威を失墜させ、プーチン政権に「免罪符」を与える結果となった。ロシアはこれを最大限に利用し、自国の正当性を訴えることで国際的な包囲網を無効化しようと画策している。米国による電撃的な軍事行動は、短期的には勝利に見えるかもしれない。しかし長期的には、ロシアに強固な反論の根拠を与え、世界がさらなる秩序の混乱へと向かう引き金となっていると言えよう。