中古の白いワゴン車を手に入れたAさんは、幼い頃からの憧れを形にしようと、多額の費用を投じて救急車に似た姿へと改造しました。車体には鮮やかな赤色のラインを引き、屋根には立派な赤色灯を設置します。側面には実在しない「地域救急」という文字を精巧に貼り付け、外観は本物と見紛うほどの完成度となりました。
「サイレンを鳴らさなければ、ただの奇抜なデザインの車だ」と確信して公道へ繰り出したAさんを待っていたのは、予想もしない光景でした。走行中、前方の車がパニックになったかのように次々と道を開け、歩行者は不安げな表情で足を止めます。
街の平穏をかき乱している自覚がないまま走り続けると、ついに交差点でパトカーに呼び止められ、複数の警察官に囲まれてしまいました。Aさんはどのような罪に問われるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
赤色灯を設置しているだけでも違反になる可能性あり
ー一般車両に「赤色灯」を装備して公道を走行することは違反でしょうか。
道路運送車両法の「保安基準(第42条)」では、赤色回転灯を装備できる車両は、警察車両、消防車、救急車などの「緊急自動車」に限定されています。一般車両が赤色灯を備えることは、車両の構造規格そのものが基準を満たさない「不正改造車」とみなされます。
道路運送車両法違反(不正改造等の禁止)に問われた場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。これに加えて、車両には「整備命令」が出され、15日以内に赤色灯の撤去などの原状回復を行わなければ、車両の使用停止命令や車検証の没収といった行政処分が下されることになります。
ー点灯させずに、ただ設置しているだけでも違反ですか
「点灯させなければ良い」「カバーをかけておけば良い」という解釈は通用しません。公道を走行できる車両は、保安基準に適合している必要があります。赤色灯が車両に固定されている、あるいは容易に使用できる状態で設置されていること自体が、整備不良(現認されれば運行停止命令や罰則の対象)となります。
ーサイレンを鳴らしたり、緊急走行を装って信号無視などをしたりした場合、罪に問われますか
実際にサイレンを鳴らして緊急走行を装い、信号無視や通行区分違反を行った場合は、極めて重い法的責任を問われることになります。
本来の優先走行権がない一般車両による信号無視や逆走は、道路交通法違反の直接的な対象となります。さらに、公務員と紛らわしい装備を用いて官公署の業務と誤認させる行為は、軽犯罪法第1条15号の「官名詐称等」に抵触する可能性があります。万が一、この偽の救急走行によって交通を混乱させ、本物の救急車の活動を妨げたり警察の業務を阻害したりした場合には、刑法の偽計業務妨害罪が適用され、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される恐れもあります。
実際に、軽自動車の屋根に赤色灯を取り付け、サイレンを鳴らしながら運転していた学生が、道路運送車両法違反(不正改造)と道交法違反(速度超過)の疑いで書類送致された事例も発生しています。
趣味の範囲であっても、公共の安全と秩序を乱す偽装は、決して許されるものではありません。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。