仕事を辞めたいと思っても言い出せないとき、「退職代行」という手段を考える人はいるでしょう。職場を辞める手続きをすべて代わりに行ってくれる便利な仕組みですが、その一方で、失ってしまうものもあるようです。サイコミにて連載中の作品『今どきの若いモンは』からの抜粋エピソードとして、漫画家の吉谷光平さんがX(旧Twitter)に投稿した『退職代行で失ってしまうモノの話』では、その“本質”を突いた内容で大きな反響を呼んでいます。
物語は退職代行を利用して会社を辞め、その退職代行業者で再就職した遠矢の話です。前の職場では上司の麦田に何かとよくしてもらったものの、何1つ成果を出せずに苦労していました。遠矢は麦田に対して「これ以上迷惑かけられない」と思いつめていた矢先、YouTuberのフジ先輩(退職代行会社の社長・藤原)に出会い、転職相談を通じて退職代行の利用を決意します。そしてそのまま退職代行会社に雇ってもらうことになりました。
再就職後、遠矢はこれまでの感謝を藤原に伝えますが、藤原は心の中で「何言ってんだ」と遠矢のことを嘲笑します。いまや食事の配達から恋人探し、職探し、家事、さらには墓参りまで、あらゆることを“代行”ができる時代ですが、その便利さの陰で、若者は「矢面に立つ経験」を失っていると藤原は感じます。
そして、「迷惑をかけたくない」という理由で退職代行を使った遠矢に対し、藤原は皮肉にも「その方が迷惑だろう」と思うのでした。他人を思いやるふりをして、実は自分のことしか考えていない愚かさに気づかない遠矢を見て、「こんなクズがいるおかげで俺は金を稼げる」と冷笑するのでした。
この投稿に対して「経験しないから実態を捉えられず自分すらボヤける…めちゃくちゃ響いた」「自分自身の手でなんとかしないと」など共感の声があがっています。
そこで同作について、作者の吉谷光平さんに詳しく話を聞きました。
“矢面に立つ経験”で失うものとは?
ー退職代行を題材に選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
話題に上ることも多く、実際に身近でも起こっていたという話を聞いて興味を持ちました。
ー“矢面に立つ経験”を失うことで、人はどんなものを失っていくと思われますか?
「何を代行してもらっているか」という感覚が乏しくなり、その価値を過小評価してしまう気がします。
ー遠矢さんのように「人に迷惑をかけたくない」と思う気持ちが、逆に他者との関係を歪めてしまう描写が印象的でしたが、そこにはどんなメッセージが込められていますか?
本当は「辞めたいだけ」という本音を、「迷惑をかけたくない」という言葉にすり替えることで、自分が傷つかなくて済む。そしてそのすり替えに自覚がない。そういうことはよくあると思います。自戒も込めて描きました。
<吉谷光平さん関連情報>
▽『今どきの若いモンは』連載サイト(サイコミ)
https://cycomi.com/title/87
▽電子書籍『今どきの若いモンは』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0875FV4GF
▽X(旧Twitter)
https://x.com/kakikurage