IT企業で中間管理職を務める40代のAさんは、仕事は順調で年収も上がり、部下からの信頼も厚い人物です。家庭では小学生の子供の面倒をよく見て、週末には腕によりをかけて料理を振る舞います。先日の結婚記念日には、妻が欲しがっていたブランドのバッグを内緒で用意し、喜ぶ姿を見てご満悦でした。完璧な夫、そして父親だと自負しています。
その日夜、Aさんは失意に暮れます。感謝の言葉とは裏腹に、妻は「疲れているから」と言い残し、彼に背を向けて寝てしまったのです。実はこの数カ月、妻から夜の生活を拒まれ続けていたのです。
家事も育児もこなしプレゼントまで贈ったのに、「なぜ拒絶されてしまうのか」と、Aさんの心は虚しさでいっぱいに。父親としても、夫としても、妻や家族に尽くしているAさんは、どうしたらいいのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞きました。
「妻のために尽くしている」は本当なのか?
ーAさんのように妻から夜の生活を拒否される事例は多いのでしょうか
Aさんのようなお悩みは決して珍しくなく、ご相談いただく中でも多いケースです。ある調査では、既婚者の7割近くがセックスレス、またはその傾向にあるというデータもあります。
家事や育児に協力的で、夫婦関係も悪くないと感じているにもかかわらず、夜の生活だけがうまくいかないというご夫婦は、実は世の中に数多くいらっしゃるのが実情です。
ー尽くしてくれているはずの夫を、妻はどうして拒否してしまうのでしょうか
Aさんは家事や育児、プレゼントなど、ご自身としては「妻のために尽くしている」とお考えのことと思います。しかし、その『良かれと思って』の行動が、奥様にとっては独りよがりに映ってしまっているのかもしれません。
セックスレスの原因として、奥様が夫とのセックスを「楽しくない」「苦痛だ」と感じているケースがあります。夫だけが満足して終わってしまったり、痛みを感じていたり、自分の体を性欲処理の道具として利用されているように感じてしまったり…。夫を傷つけたくない、あるいは言えるような雰囲気ではない、といった理由から本音を言えずにいる女性は少なくありません。
Aさんが普段どれだけ優しくても、セックスが苦痛なものであれば、奥様が拒否してしまうのは自然なことなのです。
ーAさんがすべきことはどのようなことでしょうか
最も大切なことは、ご自身の「これだけやっているのに」という視点を一度手放し、奥様の「本音」と真摯に向き合うことです。
まずは夫婦で穏やかに話し合う時間を作ってください。その際、ご自身の欲求を伝えるのではなく、「いつも何か我慢させていないかな?」「嫌な思いや、痛い思いをさせたことはなかった?」というように、奥様を気遣い、本音を話しても大丈夫だという安心感を与えることが重要です。
もし奥様が勇気を出して本音を話してくれたら、決して否定せず、まずは「そうだったんだね。気づいてあげられなくてごめんね」と受け止めてください。その上で、「どうすれば君は心地よくなれるかな?」と、二人で解決策を探していく姿勢を見せることが、信頼回復への第一歩となるでしょう。
◆木下雅子(きのした・まさこ)
行政書士、心理カウンセラー。大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、顧客を支えている。