田んぼの真ん中に、ぽつんと佇む小さな神社。まるで水面に浮かぶように見える春の姿と、青々とした稲に囲まれる夏の姿。その幻想的な対比を捉えた写真が、「なんとも美しい日本の風景」と大きな関心を集めています。
投稿したのは、こうした神社、通称「ポツンと神社」を追い続ける写真家のえぬびいさん(@enuenuenubi)。今回の写真は千葉県にある「水神社」を撮影したものだとといいます。
「日本各地のポツンと神社を調べて回って撮影していて、その一環で見つけました」
もともと廃墟や時代を感じさせるレトロな電話ボックスなど、不思議な雰囲気を持つ風景が好きで、撮影をしていたという、えぬびいさん。偶然、田んぼの真ん中にある神社の存在を知って訪れてみたところ、すっかりその魅力に憑りつかれたのだとか。
「数ある社の中でも“ポツンと”した場所に惹かれる理由は、風景としての異化効果。見慣れた田園と宗教空間が邂逅する瞬間に郷愁を感じる、そんな不思議な空間に惹かれます」
「今回の神社は、春は水面に青空が映り込んで“浮島”のように見えるのが魅力的。田園の中にある神社は季節で全く姿が変わるのが面白く、気に入った場所は各季節ごとに回っています。狙いどきに刈り取りが終わっていることもあるので、1週間ずらしたり時間帯を変えたりして、偶然が合う瞬間を探ります」
ポツンと神社は由緒の記録が乏しい例も多く、開催中の祭礼がある地域を除けば、分かるのは創建時期や御祭神といった最小限に留まることも。それでも、掃除や草刈りに通う人の姿に、地域で大切に残されている事実が見えてきます。
「撮影してから図書館などで調べたり、現地で会えた方に話を聞いたりしますが、今回の場所は細かな情報が出てきませんでした。
過去に訪れたある神社では、掃除をしていた地元のおじさんから興味深い話を聞いたことがあります。一般的に神社は東向きに建てられることが多く、太陽の昇らない北側や西側に向けて建てることはほとんどありません。ところがその神社は珍しく北向きに建てられていたのです。
おじさんによると、神社の北側に村があり、神様にその村を守ってもらうという願いを込めて、あえて北向きに建てたのだそうです。地域への深い愛情が感じられる、心温まるエピソードでした」
えぬびいさんが撮影対象とするポツンと神社は、Googleマップの航空写真で田んぼ地帯を根気強く眺め、真ん中に不自然な“点”や社らしき影を見つけてはピン留めしているのだそう。候補がまとまると現地を訪れて確かめる――という手順を繰り返し、今では1冊の写真集を出すほど数多くのポツンと神社をカメラに収めてきました。
「ポツンと神社の写真を見てワクワクしてほしい。楽しんでもらえたら――それに尽きます。懐かしさや郷愁を感じる方も多いようなので、実際に自分でも探してみるきっかけになれば」