木竹工芸の全国公募展「伝統工芸木竹展」で、京都府南丹市美山町板橋の木工作家古谷禎朗さん(50)の「栃(とち)と胡桃(くるみ)の棚」が、最高位の文部科学大臣賞に輝いた。艶のある漆など和の技法に、曲線を生かした構造など洋の意匠も交えた美が評価された。工房のある美山の自然は「造形や色合いの先生」。「伝統を継承しつつ、歴史の先端にいる者として何ができるか」と探り続ける。
古谷さんは大阪市出身。福知山高等技術専門校で木工を学び、2005年から同町に工房を構える。家具を手がけ、購入者の約半数は欧米など海外という。公募展で活躍してきたが、歴史ある同展(日本工芸会主催)では初めて大臣賞を受けた。
受賞作の棚は幅1メートル、高さ50センチほど。動きのある板目の栃で正面扉を仕上げた。扉の取っ手はT字状。下部が滑らかに先細る意匠が作品のシンボルとなっている。取っ手は後付けに見えるが、実は取っ手のみを彫り残した一枚板。「視覚のトリック」が古谷さんの作風という。
本体はウォールナット(クルミ科)製。厚みにわずかな抑揚を付け、軽やかさと安定感を両立させた。工房には数十種ののみ、指先に載る小さなかんななどがあり、使い分けて細部まで整えた。
表面に重ねた漆は20層ほど。繰り返すほど艶を生む上、漆が導管に染み込んで強度が増すといい、用と美を兼ねる。
木材をはめ合わせる技法や拭き漆は伝統を継ぐ一方、曲面へのこだわりなど「洋のテイスト」も強く、伝統工芸では「挑戦的」。そもそも同展は木箱や器が中心で、家具の出品や受賞は珍しいため、快挙を喜んでいる。
住環境が変わる中、伝統工芸はどうあるべきか―。「過去と同じことはしない。独自の技法を洗練させたい」と模索を続ける。
山裾の工房裏は雑木林。飛び交う約20種の野鳥や、飼育するナマズやイワナを眺めるのが趣味という。自然界の曲線やバランスは魅力的で「学ぶべき世界に囲まれている」。
まきストーブ用の伐採を雑木林で長年続けるが、「まきにはもったいないツバキやヤマザクラもある」ため、制作に使う準備も進めている。「伐採からする作家はいないのでは」。木工の世界を広げていく。