ピアノ調律師目指す18歳、人気駄菓子ココアシガレットを木材で完全再現 メーカーも驚く完成度「感動しました」

金井 かおる 金井 かおる

 「木材以外は一切使っていません」ーー北海道函館市に隣接する七飯町出身で、今春、北海道おといねっぷ美術工芸高校を卒業したばかりの佐藤琳さん(18)がツイッターに投稿した写真が話題です。写真に写るのはロングセラー駄菓子「ココアシガレット」を模した木工作品。菓子が折れた様子や破れた上ぶたまで忠実に再現しています。作品を知ったメーカー担当者も驚く完成度の高さです。制作者の佐藤さんに話を聞きました。

一番苦労したのは…「星マーク」

 作品のサイズはほぼ原寸大。箱にはウォールナット、シガレット菓子にはカエデ、文字には水木の突板を使用。完成までの日数は「のんびりやって約2週間程度でした」。

 パッケージの商品名やイラストの細部はペイントしたのかと思いきや、全て木材を貼り合わせて表現しているそうです。

 「文字は本物のココアシガレットの箱の文字をデザインカッターで切り出し、木材に貼り付けてまわりを鉛筆でなぞり、木材を切り出したり掘ったりしてます。レタリングは全て本物を参考にしてます」

 破った上ぶたは「薄いウォールナット材を小さいほぞ組で繋いだものに、カエデの突板を貼って再現しました。難しいですが、頑張れば根性があれば誰でもできます(笑)」。

 ツイッターで作品写真を見た人からは象嵌(ぞうがん)技法にも驚きの声が寄せられました。象嵌とは、木材などの表面に模様を刻み金などをはめ込む工芸技法のこと。側面の星マークと「オリオンココアシガレット」の文字、フタの星マークに施されています。完成までに一番苦労したのは星マークに金をはめ込む作業だったそうで「星の形を切り出す際に星の先端が割れそうになりながらも頑張りました」。

 そもそもなぜココアシガレットをモデルに?

 「私がココアシガレットが好きだからです。箱買いしたことも何度かあります(笑)」

本家「オリオン」の反応は…?

 ココアシガレットを製造販売するオリオン(本社、大阪市淀川区)常務取締役の高岡五郎さんに作品写真を見てもらうと、「芸術品として立派な物。感動しました。身近な物として取り上げてくれたことはありがたいです」と同社の看板商品がモデルとなったことに驚いた様子でした。

 まさか原寸大だとは思わなかったという高岡さんは「お菓子がリアルすぎて間違って食べられたら困るね」と茶目っ気たっぷりに笑いました。

ピアノの調律、修復、そして「ペン回し」

 佐藤さんが木工を始めたのは16歳のころ。

 「『できれば音が鳴るものを作りたい』と思い、スピネットと呼ばれるチェンバロの小型のものを設計図から製材、手加工まで全て自分で作りました。結果的に本物には全く匹敵しないようなものになってしまいましたが、鍵盤をきちんと動かし音を鳴らすことができました」

 ピアノにまつわる作品への思いはますます強くなり、高校在学中に大作「ピアノのアクションオブジェ」に挑戦します。

 「ピアノの中にある普段見えにくいアクション機構(ピアノの音を出す仕組み)に芸術性を感じ、寄木細工の技法を応用して作りました。6方向から鍵盤を押すことができ、葉っぱの彫刻がアップライトピアノのアクション機構と同じように動くようになっています」

 腕を買われピアノの工房や調律師から部品製作の依頼を受けたこともあったそうです。

 「充実した高校生活を送ることができました。美術と木工が専門の高校に行くことができたので親には感謝しかないです」

 佐藤さんが木工やピアノと同じぐらい情熱を注ぐのが「ペン回し」です。自身のSNSでも見事な技を披露し、「ペン回し木工作家」という新ジャンルの確立にも夢を抱きます。

 「ペン回し木工作家とは、ペン回しを美術作品にする私の『職』と言いますか…未来像です。ペン回しを立体作品として表現できないか挑戦中です。ペン回しの手の独特な形や芸術性を彫刻や寄木の技法を使って美術作品として作っていくつもりです」

  現在はピアノの調律を学ぶ佐藤さんの夢はーー。

 「今、私が目指していることは他人が興味を持ってくれるような個性的なピアノ調律、修復の技術者になること。そして木工作家として作品を作り『ペン回し展』を開催することです。時間がかかってもかからなくても、実現したい夢です」

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