子どもの頃に多くの人が使ったであろう文具といえば「クレパス」、「クーピー」、「マイネーム」。文具メーカー「サクラクレパス」が子どもたちの笑顔のために奮闘した物語に迫ります。
今回、お話を伺ったのは、大阪森ノ宮に本社を構える「サクラクレパス」社長、西村彦四郎さん。2024年度の売上が463億円という「サクラクレパス」は、創業して104年目を迎える老舗企業で、長い歴史には倒産の危機もあったそう。大ベストセラー文具はどのようにして生まれたのでしょうか。
クレヨンと〇〇のいいとこ取り!?「クレパス」誕生秘話
大正時代、子どもたちが使っていた「クレヨン」は芯が硬く、線を描くことはできてもベタ塗りするには向いていない商品で、表現の幅が狭いという弱点がありました。また、粉末顔料を固めた「パステル」であれば色を塗るのは容易でしたが、定着液を吹き付けるという後処理が必要だったため、子どもたちには扱いにくいものでした。
そこで「サクラクレパス」初代社長の佐々木昌興さんは、クレヨンとパステルの良いところを組み合わせようと考え、「クレパス」を大正14(1925)年に完成させました。
しかし、当時のクレパスに使用されていた材料は気温の変化の影響を受けやすかったため、硬さの違う「夏用」と「冬用」の2種類が存在していたのです。
ところが、気温に合わせた2種類を販売しても、流通の問題で冬の時期にお客さんが夏用を購入してしまったり、その逆があったりして、クレームが殺到!描きやすいように配慮したことが裏目に出てしまい、子どもの笑顔どころか、子どもを泣かせてしまうことに…。
そこで昌興さんは信頼回復のため、驚きの決断を下します!
それは…全商品の回収!信頼回復のために決断したものの、結果的に会社は経営の危機に陥ってしまいました。
そんな状況になっても、会社として根底にある思いは、「子どもたちにとって何がいいのか」ということ。子どもたちに不十分なものを使ってもらうのではなく、もっといいものを使ってほしいと考え、年間を通して使用できる「クレパス」の開発に取り組むことに!
「クレパス」は簡単にいえば溶かしたロウに顔料を加えたものなので、気温の変化を受けにくいロウを探すことに。さまざまな試行錯誤を重ねた結果、植物由来の天然ロウと外気の影響を受けにくい合成ワックスを配合して通年使える「クレパス」を完成させたのです!