小さな会社を経営するAさんは、近年の業績不振に頭を抱えていました。取引先への支払いや従業員の給与など、重なる支払いに追われ倒産の危機が目前に迫っていたのです。金策のために奔走してもどこも門前払いで、銀行からの融資も断られ途方に暮れていました。
そんなある日、Aさんの目に飛び込んできたのは競馬場の広告でした。これが最後のチャンスかもしれないと思い立ったAさんは、手元に残った1万円を握りしめ競馬場へと足を運び馬券を購入します。
レース開始の合図とともに、Aさんの心臓の激しい鼓動が止まりません。祈るようにレースを見ていたところ、驚くべきことにAさんが買った馬が見事に1着でゴールイン。場内が歓声に包まれる中、Aさんは思わずガッツポーズをするのでした。
結果を確認すると、なんと100万円もの払戻金を手にすることができたのです。「これで救われた。これは天からの贈り物だ。まだ会社を続けろということなのかもしれない」そう考えたAさんは、この予想外の資金を元手に奮起することを決意しました。
しかし喜びに浸る間もなく、Aさんの頭をよぎったのは税金の問題です。競馬の配当金にも税金がかかるのでしょうか。秋田会計事務所の秋田英策さんに話を伺いました。
ー配当金にはどれくらい税金がかかるのでしょうか
一般的に競馬の配当金は一時所得として扱われます。一時所得は以下の計算式で求められます。
一時所得=(総収入金額-その収入を得るために支出した金額-特別控除額(最大50万円))×1/2
Aさんの場合、1万円で馬券を購入し100万円の払戻金を得たので、この計算式に当てはめると一時所得は、(100万円-1万円-50万円)×1/2=24万5千円となります。
この一時所得は他の所得と合わせて合計所得金額となり、所得控除等も加味した上で所得税が計算されます。課税対象となる所得金額が増えると、住民税の算定にも影響を及ぼす可能性があります。
ー馬券代は経費として認められますか?
Aさんが100万円の払戻金を得るために購入した馬券代は「その収入を得るために支出した金額」(必要経費)として認められます。一方で、他のレースで購入した馬券代は、この払戻金と直接関係がないため、経費として認められませんので注意が必要です。
ただし、年間を通じて計画的かつ継続的に多数の馬券を購入し、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるような場合には、一時所得ではなく雑所得として扱われることがあります。
雑所得と認められると外れ馬券の購入費用が経費として処理できます。とはいえ実際に雑所得として認められるのはレアケースなので、安易に考えない方がいいでしょう。
ーちなみに、この手の相談は頻繁にあるものなのでしょうか。
一般の税理士事務所では、趣味程度で競馬を楽しんでいる人がたまたま高額払戻金を得たために、そういった人から確定申告時期に時折相談が入る程度で、常に多発する分野ではない認識です。
◆秋田英策(あきた・えいさく)/税理士・公認会計士 大阪府茨木市にて開業。税理士として、税理士事務所勤務時も含め、これまで個人から上場企業まで幅広く税務業務に従事。また、公認会計士として、前職の監査法人勤務時には、上場企業のほか、社会福祉法人等の非営利法人等の会計監査業務にも従事。2021年に秋田会計事務所を開所。現在はこれまでの知識・経験を活かし、税務・会計・監査の面から幅広く業務を実施している。