「さては他の役者に断られたな!?仕方がない、出てやるか!」
オファー快諾の心境をユーモラスに明かすのは、芸歴55年の研ナオコ(71)。9年ぶりの映画主演作『うぉっしゅ』(5月2日公開)で認知症の祖母・紀江を演じる。
役立つのであれば
岡﨑育之介監督の祖父は、昭和芸能史に名を残す偉人・永六輔。本作における軽妙な語り口にその片鱗が覗く。
「私はまだ世に出ていない才能を応援したいタイプ。岡﨑監督は無名だけれど才能があるし、もっと伸びてほしい、と。これから彼が大きくなれば役者の方から『出たい』と言ってもらえるだろうし、今回私に声がかかったということは…さては他の役者に断られたな!?仕方がない、出てやるか!と」
姉御肌の物言いは、もちろん照れ隠し。そもそも研が演じた紀江は、岡﨑監督が研をイメージキャストにして生み出したキャラクターなのだから。
「お話をいただいたときは岡﨑監督がどんな人なのかわからなかったけれど、彼の書いた脚本を読んだら面白かったし、介護という重要な問題を描いていて、そんな作品に声をかけていただけたのがとてもうれしかった。監督にはこれをきっかけに羽ばたいてほしいと思ったので、私が役に立つのであれば協力したいという気持ちでした」
看取った祖母を想う
風俗店で働いていることを隠す加那(中尾有伽)は、ひょんなことから1週間だけ認知症の祖母・紀江を介護することに…。
この2人の関係性に研は心を打たれた。自身も幼少期に祖母を介護し、看取った経験があるからだ。
「小学校3年の時から2年間くらい私もおばあちゃんを介護して最期まで看取りました。あの時のおばあちゃんはどのように感じていたのか、物語を通して知りたかったのかもしれません。撮影中は介護ベッドに横になって目の前にあるものを触って遊んで、みんなが優しくしてくれたので、まるで子供に戻ったような感覚がありました」
スッピンで挑んだ9年ぶりの主演映画。手応えは?
「岡﨑監督はモノ作りに対して真摯で純真で、感覚的にも色々なところにアンテナを張っていて、それが映画の中に活かされています。何度もこだわって編集した結果、テンポのいい作品になりました。鑑賞中は重くは感じないけれど、観終わった後にズシンと心に響く余韻があって、観客の皆さんもきっと自分のおばあちゃんのこと、家族のことを考えるきっかけになるのではないかと思います」