「台湾から撤退すべきか」 日本企業の苦悩深まる…トランプ政権の台湾政策と米中対立のはざまで

和田 大樹 和田 大樹

まず、帝国データバンクが昨年11月に発表した統計を紹介したい。同企業によると、昨年7月の時点で中国に進出する日本企業は1万3034社に上り、2年間より330社以上増加した一方、台湾に進出する日本企業は2022年の3124社から4.4%減少し、2988社となった。また、帝国データバンクが台湾に進出している日本企業のBCP(事業継続計画)を分析したところによれば、「戦争・テロ」を想定リスクとして考えている企業は18.1%となり、2年前の18.4%から僅かながら減少した。

このデータから感じられるのは、2022年8月に当時のペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問し、それによって中国が台湾本土を包囲するような大規模な海上軍事演習を初めて行い、大陸側からは複数の弾道ミサイルが発射されたケースが少なからず影響していると考えられる。中台の軍事的緊張はそれ以前からも続いていたが、台湾を包囲するような海上軍事演習、中国大陸から発射された弾道ミサイルが日本のEEZにも着弾したという事実は、台湾に進出する日本企業にとって1つの転機になった。

筆者は過去、東京都港区にあるセキュリティコンサルティング会社で顧問という立場でクライアント対応をしていたのだが、ペロシ訪台によってクライアントからの問い合わせが急激に増え、最新情報を提供するだけでなく、筆者の研究分野である国際政治や安全保障の観点から、中国側の狙い(これは単なる脅しかどうか、今後軍事侵攻はどれくらいの可能性があるのか)、米国の関与(バイデン政権はどれほど本気で対応する意思があるのか)などを電話やメールで説明し、オンライン会議で駐在員の退避、出張の可否などの対応にあたることも多かった。特に、ペロシ訪台直後は毎日のように対応に当たり、時間が経過するごとに台湾進出企業からの連絡は少なくなっていったが、台湾情勢について定期的なマンスリーレポートや退避マニュアルの作成などを求める要望が続いた。

これまでも紛争やテロが発生すれば、発生直後はクライアントからの相談が増え、少し時間が経過すると連絡が来なくなるというのが一種のパターンだったが、ペロシ訪台のケースはそのパターンに当てはまらず、その後の情勢を懸念する日本企業の数は増えていったと強く感じる。この2年間で台湾に進出する日本企業の数が減少した背景は諸々あろうが、このような背景も主な要因だろう。

また、昨年秋にトランプ政権の発足が確定して以降、筆者はそれについて様々な視点からクライアント対応に当たってきたが、製造業を中心に多く聞かれる懸念の1つがトランプ政権の台湾政策である。当然だが、製造業は資源、材料から完成品に至るまでその多くを海上貿易に依存しており、台湾情勢の行方はビジネスにとって死活問題となる。

トランプ大統領はこれまでに、台湾が半導体産業を米国から奪った、台湾は防衛費を増額するべきだなどと発言し、台湾軽視路線に舵を切るのではないかという懸念が聞かれる。一方で、国務長官に就任したマルコ·ルビオ氏は対中強硬派であるが、中国の海洋覇権を抑えるため台湾防衛の重要性を強く訴えており、トランプ政権としては台湾への関与を続けるという見方も聞かれる。

現時点でトランプ政権の台湾政策は不透明な部分もあるが、筆者としては、トランプ大統領は台湾へ防衛費の増額や米国製軍備品の購入などで強く迫る一方、中国への優位性を維持·強化する一環として台湾への関与は継続し、中国に対しては”侵攻すれば高関税”と圧力を掛ける手段を取ると考える。クライアントに対してはこのように回答しているが、日本企業としては今後すぐに軍事的緊張が高まる可能性は低いものの、常時その動向を注視しなければならない状況が続くことを意識する必要がある。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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