福岡県八女市の「八女福島の白壁の町並み」は江戸から昭和初期までの伝統的な建造物が約150軒にわたり連なる。ここはかつて関ヶ原の戦いで功を上げた筑後国主・田中吉政が築いた福島城があった城下町だ。その1軒、陶工房町家カフェ「絵咲木(えさき)」の店内はカフェスペースのほか、陶芸家でもある店主・江﨑久美子さんの陶芸作品が並び、2階には地元劇団の稽古場も。江﨑さんの飼い猫「ハチ(八)」(オス、10歳)は、頭がぱっつん柄。冬毛に生え変わると背中にハートマークが現れる。お客さんからは「愛らしい」「もふもふの毛並みに癒される」と人気だ。弟猫の「サク(朔)」(オス、9歳で没)と兄弟2匹でお客さんを癒していたのだが…。ハチとサク、合わせて「ハッサク(八朔)」について、江﨑さんに話を聞いた。
江﨑さん 10年前、黒木町のアイスクリーム店の知人の飼い猫に子猫が5匹産まれ、「飼い主を探している」という情報が入ってきたんです。5匹の中でもオスの2匹がすごく仲良くて、そんなに仲のいい兄弟を引き離してしまうのはかわいそうだと。それで1匹だけのつもりだったのですが、2匹を引き取ることになったんです。それがハチとサク兄弟でした。
2匹あわせて「はっさく(八朔)」です(笑)。とても仲良し兄弟でね。真夏でも猫団子になって一緒に寝ていましたし、弟のサクは子猫が母猫にやるみたいに、ハチ兄さんのお腹を毎晩フミフミしてね。ハチはやめろよって顔はしているけど、サクにされるがまま。そんなふうにしてずっとここで一緒に過ごしてきました。お客さんからも2匹は人気だったんですよ。でも1年半前、サクが病気になってしまったんです。
喘息がひどくなったような症状で、気管支炎と診断されました。猫には多い病気だそうで、治らない子が多いとのこと。変な咳を繰り返し、最期の5日間くらいは呼吸しづらそうで「お母さん、しんどいよ」といわんばかりに鳴いていました。そんなサクの姿をみるのはとても辛かったです。今年3月、ハチを置いて先に天国へ旅立ちました。
兄さんのハチもたぶんつらかったのでしょう。サクがいなくなると、2週間くらいでしょうか。ハチは声を出してサクを探し続けました。そんなハチの姿をみるとよけいに悲しくなって…。サクがすごく甘え上手だった一方、ハチはクールで頼り甲斐のある兄だったので、ハチはそういう性格なんだとずっと思い込んでいたんです。けれども、サクがいなくなってから、ハチはものすごく甘えん坊になったんですよ。実は自分も甘えたかったけど、サクがいたから甘えるのを我慢していたのかなって。
サクが亡くなって9ヶ月が経ちますけど、天井の梁の上からよくこっちをみていたので、今もそのあたりにたたずんでいるような気がします。ずっと2匹が励ましてくれたおかげで、私も長い間、ここでカフェや陶芸ができています。今も心の片方にぽっかりと穴があいたまま。もしもご縁があれば、新たな子を引き取るかもしれませんが、先住猫とうまくいかない場合もあるし、難しいですよね。猫との縁って、人間が選ぶのではなく猫が選ぶともいいますし、この先どうなるかはわかりませんが、ハチはいま私に甘え放題なので、ずっとこのままでいいのかなとも思っています。
【店名】陶工房町家カフェ「絵咲木」
【住所】福岡県八女市本町65