今年から課長になったAさんは、部下の数も増えるなか、新たな職務に奮闘していました。なんとか部下たちと信頼関係を築き、業務が順調に進むようになってきた矢先、新入社員のBさんとの関係に思わぬ亀裂が生じてしまいます。
Bさんは最新のAIツールに精通し、それらを巧みに業務に活用していました。当初Aさんはその能力を高く評価し、「そんなことも知っていてすごいな」と声をかけます。しかしその言葉に気を良くしたBさんは、言動に傲慢さが見え隠れするようになりました。「課長、そんなことも知らないんですか?」という言葉が、会議の場で飛び出すことも珍しくありません。
状況は日に日に悪化していき、Bさんの遅刻が増え、締め切りを守らないなどの職務怠慢が目立つようになりました。Aさんが注意しても、Bさんは聞く耳を持ちません。ついには「自分よりも無能な上司の下で働くのは嫌です」とBさんは言うようになり、Aさんの心に深い傷を残しました。
Bさんの専門知識は会社にとって価値がありますが、明らかな侮辱や職務怠慢は目に余るものがあります。このようなケースは、逆パワハラとして処分の対象になるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
ーBさんの言動はパワハラにあたるのでしょうか
厚生労働省が示す「パワーハラスメントの定義について」によると、パワハラと認められるには、以下の3つの要素を満たしている必要があります。
・優越的な関係に基づいて行われること
・業務の適正な範囲を超えて行われること
・身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
ここでいう優越的な関係というのは、職務上の地位だけを指すわけではありません。このケースのように、Bさんの協力がなければ業務が円滑に進まない状況であれば、Aさんに対して優越的な関係にあるといえるでしょう。
したがって、Bさんの行為はパワハラであると認められる可能性が高いと考えます。
ーAさんはどうしたらいいでしょうか
本人と話をしても改善が見られないのであれば、会社が設置しているハラスメント相談室に連絡するか、労働基準監督署などに相談することをおすすめします。
ただ、Bさんの遅刻や締め切りを守らないという態度は、パワハラを通り越して職務怠慢です。一般的に就業規則には、上司の指示や業務命令に従うことが求められています。正当な理由なく指示や命令に従わない場合、業務命令違反として懲戒処分や解雇の対象になる可能性があるでしょう。
この点も考慮して、Aさんは会社と相談するといいでしょう。もし、Bさんに改善が見られないのであれば、何らかの処分が下されると思われます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。