今週放送中の連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)第10週「人それぞれでよか」では、「さくら通り商店街」が毎年開催する「こども防災訓練」の準備で、商店街の皆が震災直後の「食」の記憶を話し合う姿が描かれた。
「炊き出し隊長」に指名された結(橋本環奈)は、栄養専門学校・J班の仲間である沙智(山本舞香)、佳純(平祐奈)、森川(小手伸也)の助けを借りながら献立を考える。震災後、結の幼なじみ・菜摘(田畑志真)が食物繊維不足による便秘で体調を崩したことを教訓に、メニューは「わかめおむすび」と「鯖ツナけんちん汁」に決まった。
当日「わかめおすび」に使うごはんは「炊き立てほかほか」にこだわりたいという結。佳純から理由を聞かれると、「うち、後悔しとうっちゃん」と言う。当時6歳だった結(磯村アメリ)が避難所で塩むすびを配ってくれた雅美(安藤千代子)に向かって、「これ冷たい。ねえチンして」と言ってしまった記憶がよみがえったのだ。結は「その人、絶対ほかほかのおむすび食べてもらいたかったんやと思う」と省みる。
うっすらと、しかし確実に残っていた結の記憶
ありがちな展開ならば、この「6歳の記憶と後悔」を結が栄養士を志す動機にして、両親に決意を打ち明けるときや、専門学校での自己紹介の場面で語りそうなものだ。しかし『おむすび』の作り手はそうはしなかった。この作劇の意図について、制作統括の宇佐川隆史さんと、第10週の演出を担当した小野見知さんに聞いた。
宇佐川さんは、自身も根本ノンジさんが書いた脚本を初めて読んだときに驚いたと言い、こう続ける。
「幼い頃の体験が将来の夢に結びつくという展開は往々にしてありますが、根本さんはあえてそうしなかった。私は台本を読んで、『ここで言うんだ!』と唸りました。人の人生って、そんなにうまいことすべてがつながっているわけではないんですよね。震災のトラウマから長いあいだ心に蓋をしてきた結は、きっとここで初めて当時の記憶を反芻したのだと思うんです。
『避難所のおむすびの記憶』は、長い間、無意識下に薄くあった。ただうっすらではあるけれど確実に残っていて、炊き出しの準備をすることで、その記憶がふと出てきた。たくさんの被災者の方々にお話をうかがってきた私たちから見ても、このプロセスはとてもリアルだと感じました」
「何気ない日常のなかでの結の成長」から出た後悔の言葉
さらに、演出を担当した小野さんはこう語る。
「結の『後悔しとうっちゃん』という台詞を、もっと溜めたり、印象的に重ねたりということもできたかもしれませんが、あえてここでは『ポロッと言葉が出た』という演出にしました。炊き出しをやることになって、商店街の皆さんが当時の状況を思い出して語るのを、結が主体性を持って聞く。その過程できっと、彼女の中でパーツでしかなかった記憶がだんだんとつながっていったのではないかと考えました」
「『おむすび』は、『何気ない日常の中での結の成長』を大切にしています。結が、震災の記憶をJ班の仲間の前でポロッと口に出せるようになった。それだけ4人の絆が出来上がっている、ということも書かれた脚本だと思いました。『うち、後悔しとうっちゃん』からはじまる台詞については、橋本環奈さんともお話しして、『丁寧には言いたいけれど、わざとらしくしたり、大げさにはしたくない』とお伝えして、日常の延長というふうに演じていただきました」
明日放送の第50回はいよいよ「こども防災訓練」の炊き出し本番。果たして地域の人々は喜んでくれるだろうか。