大手商社で営業事務の仕事に就いているAさんは、今年4年目を迎えた中堅社員です。その日は、いつもよりも仕事が忙しく遅くまで残業をしていました。朝から根を詰めて仕事をしていたAさんは、帰り道にあるコンビニに寄り晩御飯とおやつを購入し帰宅します。
リビングの椅子に座り大きく息を吐いてからレジ袋の中身を確認すると、支払った金額と中身が一致しないことに気が付きます。慌ててレシートを確認したところ、サンドイッチの料金を支払っていないことが分かりました。どうやら疲れ切っていたこともあり、セルフレジでサンドイッチをスキャンしないまま袋に入れ、購入したつもりになって持って帰ってきてしまったようです。
Aさんは素直に謝って追加支払いをするためにコンビニに電話しようとしますが「万引き扱いされるかもしれない」と怖くなってしまいます。Aさんの行為は万引きになってしまうのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ーAさんの行為は万引きにあてはまるのでしょうか
故意に商品をレジに通さず代金を支払わずに持ち帰った場合は、窃盗罪に問われます。このAさんのケースでは商品を盗もうとしたわけではなく、あくまでも精算を忘れたという状況なので、窃盗罪には当てはまらないと考えられます。これは買い物中に間違って商品を持ち帰ってしまった場合でも同様です。
ただ精算をし忘れたという場合でも、故意を疑われる場合には窃盗罪に問われる可能性も否定できません。たとえば何度も同じことを繰り返している場合や、意図的に高額の商品だけを精算していない場合は故意を疑われるでしょう。
実際に北海道旭川市のスーパーでは、セルフレジを利用し一部の商品をスキャンせず持ち帰ったとして警察に引き渡された事例もあります。
ーでは罪を問われることはないのですか
ただAさんのように、自宅に帰ってから精算していない商品に気づいたにもかかわらず、店に伝えずに自分の物にしてしまうと刑法第254条の「占有離脱物横領罪」に問われかねません。この罪は、他人の占有を離れたものを自分のものにする犯罪です。落とし物を拾って自分の物にしたときなどに適用されます。
自宅に持って帰ってしまった未精算の商品は、既に店の占有から離れたと考えられます。誰のものでもなくなった商品を勝手に自分の物にしたとなり、占有離脱物横領罪に問われるでしょう。占有離脱物横領罪の法定刑は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料です。罪に問われないために、正直に申し出て料金を支払ったほうがいいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。