一目惚れで迎えた2匹目の全盲猫・えんくん 二足歩行で驚かせるやんちゃな日常と、飼い主の想い

古川 諭香 古川 諭香

障害を持つ猫の魅力を伝える「オンリーにゃんず写真展」を開くなど、様々な猫が幸せになれるように奮闘する、ピノワルド工房さん(@pinowald)。

自宅でサビ猫のいとちゃんや目が見えないつむぎちゃんと暮らしていたが、2年前、新たな家族、えんくんをお迎え。えんくんは目が見えないことから里親希望者が現れず、ずっとのおうちと出会えずにいた。

保護猫団体から紹介された“全盲の男の子”に一目惚れ

当時、写真展に力を注いでいたピノワルド工房さんは、障害猫と暮らす家族とやり取りする中で、新たに猫を迎えたいと思うように。

そんな時、愛猫たちを譲ってもらった保護猫団体から「全盲の男の子の譲渡が決まらない」との連絡を受け、えんくんを紹介された。

写真を見たピノワルド工房さんは、クールな姿に一目惚れ。

「我が家のつむぎとは違い、えんちゃんは目の部分が白く、“百戦錬磨な戦士”みたいでした」

しかし、奥さんは静けさを好むつむぎちゃんやいとちゃんとの相性を心配し、反対。そこでピノワルド工房さんは「譲渡会に行こう!」と半ば強引に奥さんを連れて行った。

ピノワルド工房さんの熱意により、家族になったえんくんは好奇心旺盛な性格。専用部屋にした和室からテリトリーを広げていき、5日後には先住猫たちと初対面。

つむぎちゃんとの対面時にはお互いに「何かいる」と察して近づき、顔がぶつかるとののけぞる行動を繰り返した。

一方、いとちゃんは警戒し、猫パンチをお見舞い。やんちゃなえんくんは負けじと猫パンチをお返しした。

「獣医さんからは目が見えていないと言われましたが、私は右目がうっすらと見えているのでは…と感じます。たまに水飲み場に池ポチャしますが、障害物を避けるのはつむぎより上手。ぴょんぴょんと飛び越えます」

活発なえんくんは、中に人が入っているかのような二足歩行を披露して家族を驚かせたこともある。

ピノワルド工房さんはえんくんが安心して暮らせるよう、部屋に障害物を置かないように配慮し、先住猫たちが不満を溜め込まない環境作りも心がけた。

「つむぎには大好きな妻とくつろげるよう、安心スペースを作りました。いとはキッチンカウンターの上など、えんくんが行けない場所で過ごせるように工夫しました」

そうした工夫もあり、3匹は徐々に適切な距離感を保てるように。今では、互いのテリトリーを守り合う仲になった。

ただ、やんちゃ盛りなえんくんはじゃれつきがエスカレートすることも。レディへの力加減を覚えることが、今後の課題だ。

前世は犬…?甘えん坊でビビリな姿にキュン

やんちゃなえんくんは甘えん坊で、全身を撫でられるのが大好き。すぐに喉を鳴らしてうっとりするため、「チョロ男」と呼ばれている。

「前世は犬なのかも。名前を呼ぶとかけつけ、じゃれつきます。寝ていても、妻があと数百メートルで家に到着するところに来ると、玄関に駆けつけて鳴きます」

一方、来客時にはパニックになる。部屋の隅でブルブル震え、過呼吸になるくらい、怖がってしまう。

「お掃除ロボットも敵です。始動すると執拗に追いかけ、攻撃。掃除後はタンクにゴミを回収するところまで見守るも、吸引音にビックリして逃げ惑います」

ピノワルド工房さんいわく、えんくんができないことはほぼなく、トイレ内にウンチを収められないことくらいなのだそう。

「排泄後には一生懸命、トイレのフチをカキカキ(笑)首を傾げながら、1分以上夢中で掻く姿がかわいいです」

そう話すピノワルド工房さんは障害を持つ猫へのネガティブなフィルターを取り払いたいとの想いから、世界猫の日に自作の絵本『みつめる』をAmazonにて発売した。

「本作は物語を読むあなたを「私」として主人公にし、つむぎをみつめる作りになっています。みつめる(観察する)ことによって様々な気づきが得られる、ハートフルなストーリーです」

猫はどの子もかわいくてかっこよくて、輝いている。オンリーにゃんず写真展に込めている、その願いが本作でも多くの人に伝わることを、ピノワルド工房さんは願っている。

「発達障害」ゆえの生きづらさが活動の起点に

障害と生きる猫の譲渡が進み、一般的な写真展に障害を持つ猫も普通に参加できるようになるなどして、自分の活動が解体されるのが一番の夢。

そう思うほど、ピノワルド工房さんが「オンリーにゃんず」の活動に力を注ぐのは、自分自身が生きづらさを抱えてきたからだ。

発達に若干の遅れがあると指摘されたピノワルド工房さんは幼稚園の頃、言葉の教室に通い、発音の練習をマンツーマン指導された。

「正直、嫌でした。小さい頃から頭は真っ白になりやすいですし、ハイテンションになるとそれしか見えない。今思えば、典型的なADHDでした」

大人になり、正式に発達障害であると診断をされた時には納得し、嬉しさすら感じた。“普通じゃない普通”も世の中に多いんだ。そう感じ、「生きにくい」が「生きていていいんだ」に変わった。

「今、世の中は多様性を受け入れる社会の醸成を目指す動きになっています。でも、それで逆に新たな枠に押し込められることもある。もちろん理解のために枠は必要ですが、きちんと伝えないと誤解が生じるし、特別視してしまう人もいる」

そうなりすぎないように世の中とうまく折り合いをつけながら、活動を進めていきたい。そう願うピノワルド工房さんの奮闘は3匹の愛猫たちも優しく見守っていることだろう。

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