3カ月の試用期間中、営業成績が悪くてクビ宣告…法的にはどうなの?「従わないといけないのでしょうか」 【社労士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

採用した人間が正社員として働くうえで、企業が面接だけでは把握できない適性や能力を見極めるために「試用期間」が設けられています。その期間は入社後1カ月〜半年が一般的です。この期間中は、せっかく希望の企業に入社できたとしても、簡単に解雇されてしまう可能性があります。

2024年4月に新卒で営業会社に入社したAさんも突然の解雇を通達されたひとりです。Aさんは毎日のように上司に叱られながらも懸命に働いていました。ようやく仕事の流れを覚えて、外回りの営業活動をおこないます。しかし、なかなか営業の成果を出すことができないまま、3カ月の試用期間の終了が近づいてきました。

7月の最終週になり上司に呼び出されたAさんは、営業成績が芳しくないことを理由に解雇を告げられます。ここまでなんとか食らいついてきたAさんですが、突然の解雇通知に目の前が真っ暗になりました。はたしてこの解雇通知には従わないといけないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。

ーー試用期間中に解雇されることはあるのでしょうか

試用期間だからといって、正社員よりも解雇要件が緩くなるということはありません。ただ企業によっては、正社員の解雇とは別に試用期間中の解雇について就業規則や雇用契約書に文書化している場合があります。例えば、正社員であればけん責や減給といったプロセスを踏んでから、それでも改善されない場合に解雇されますが、試用期間中であればいきなり解雇できるというような内容です。

ーーつまり試用期間中の解雇が有効になったケースもあるということでしょうか

あります。例えば2001年12月25日に東京地裁で判決が下された「ブレーンベース事件」があります。この事案では、3カ月の試用期間で雇用された人間が、緊急を要する事案に対応しないという態度を示したり、面接で精通しているといっていたパソコン作業を満足にできないことが判明したという理由で解雇されています。判決では解雇に客観的に合理的な理由があるとして解雇を認められました。

逆に無効になったケースもあります。例えば2009年1月30日に東京地裁で判決が下された「ニュース証券事件」です。この事案は、証券営業マンの成績不振を理由に試用期間中に解雇されたものです。判決では、その従業員が得た成果は決して高いものとはいえないものの、3カ月間の成果だけで従業員として不適格と判断するには認めることはできないとして、解雇は是認できないと判断されています。

ーーではAさんの場合はどうなるでしょうか?

内容としては前述した「ニュース証券事件」と似ています。確かにAさんの成績はよくなかったのでしょう。ただそれだけで解雇するのは困難だと思われます。能力が不足している場合であっても、社内異動や業務内容を変更すれば戦力になる可能性があるため、Aさんが解雇の取り消しを求めれば、認められる可能性は高いと考えます。

実際に試用期間中に解雇される事例としては、履歴書や面接で嘘をついていた「経歴詐称」や、遅刻・早退が多いといった業務に支障をきたすような「勤務態度」などがあげられます。勤務態度が悪いからといって、上司に反抗的な態度をとっているというレベルでは業務に支障をきたしているわけではないので、解雇は認められないでしょう。

試用期間中の解雇に関しては複雑な部分もあり、これだけでセミナーが開かれることもあります。もし試用期間中に解雇を告げられた場合には、泣き寝入りするのではなく専門家に相談されることをおすすめします。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。

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