インバウンド不動産投資で新たな問題 日本人が知らずに税金を肩代わり!?…制度の不条理「国にとっても損失」豊田真由子が解説

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

近年、円安の影響等もあり、外国の方が、日本国内の不動産を投資目的で購入することが増えています。外国人の不動産購入は、防衛上重要な拠点の近くなどでは、安全保障上のリスクが生じたり、投資マネーの流入で価格が高騰し、本来必要とする日本人が購入できなくなってしまったり、といった問題があることは、以前から指摘されてきたところですが、実は「その物件を賃借した日本人が、所有者の多額の所得税を肩代わりさせられる」という、あまり知られていない深刻な問題も、制度上生じてしまっており、訴訟になるようなケースも出てきています。

今年に入って、知人から相談を受け、「なぜ、そんな不条理なことが!?」と驚き、広く社会に影響もあり得る問題と考え、関係省庁に問題提起した結果、一定の対応(HPでの注意喚起)をしていただくには至ったところなのですが、おそらく今後も、同様の被害に遭われる方がいらっしゃると思いますので、本連載で注意喚起させていただこうと思いました。

(※)できるだけ分かりやすいご説明とするため、税法等の詳細や正確性については、簡略化しています。

なぜ、賃借人が所得税を肩代わり?

税法上、日本国内の不動産の所有者(賃貸人)が、海外居住者や外国法人である場合、賃借人は、「所有者が日本政府に支払うべき所得税(+復興特別所得税)を、賃料から源泉徴収(20.42%)して納付する」とされています(所得税法161、212条等)。(ただし、自己居住用の住宅等は除きます)

賃借人は、①賃料の20.42%を差し引いた額を所有者に支払い、②その20.42%を、所有者の代わりに税務当局に納める、という流れになります。なお、この納付手続きは毎月行わなければならず、その作業自体が煩瑣だとも言われています。

この制度が一般に広く知られているとは言い難く、不動産事業者が賃借人に説明することにもなっておらず、結果として、賃借人が多大な不利益を被る事態が生じています。具体的には、

①賃借人は、源泉徴収義務を知らず、賃料を全額、賃貸人に支払ってしまう。
②事後に、税務当局から督促状が来る。税務調査で追徴課税されるといった場合もある。(この段階で、制度について初めて知る)
③本来、源泉徴収して支払うべきだった金額を、税務署に納付する。(場合によっては、さらに不納付加算税等が加わる)
④所有者に、過大に支払った賃料(源泉徴収分)の返還を求めることになるわけだが、応じてもらえない場合も多い。訴訟を起こして対応せざるを得ないような場合もある。
⑤返還してもらえなかった場合には、結果として、本来賃貸人が支払うべき所得税分を、賃借人が負担することになる。

なお、賃借人が源泉徴収して納付する額は、例えば、賃料が月30万円の物件を、オフィスや店舗として借りている場合、1年間で約74万円、月100万円だと約245万円にもなり、これを肩代わりすることになったら、特に個人や中小企業の方にとっては、大きな負担です。

日本国にとっても損失

自分(個人・法人)が借りている不動産の所有者が、どこに居住する人・会社であるか、といったことは、賃借人がコントロールできることではありません。不動産が売買され、所有者が変わることも頻繁に起こっています。こうした自己と関係のない事由により、結果として他人(賃貸人)の分の多額の税負担をせねばならないことになるということは、心情的には、どう考えても不条理なことだと思います。

そして、納得のいかない賃借人がスムーズに支払うとは思えない中で、結果として、日本政府が「多額の所得税を取りっぱぐれてしまう」事態が頻発するとすれば、それは日本国と日本国民にとっても、大きな損失です。海外居住者や外国法人が、投資目的で、日本国内の不動産を買い漁ることで、そうしたリスク自体が増える、ともいえるのかもしれません。

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